雪が降る シャンソン少し口ずさむ

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手古舞伝える辰巳芸者

高尾 義彦
「人生八威聲」2018年10月
秋季号・第16巻より

 江戸最大の八幡宮で勧進相撲の発祥の地として知られる富岡八幡宮はこの夏、「御本社二の宮神輿渡御」で賑わった。3年に1度の本祭りは昨年だったため、五四町会の神輿が永代通りをずらりと埋める光景は見られなかったが、重さ2トン、高さ3㍍の金色の神輿が総距離15キロ㍍にわたって、「わっしよい、わっしょい」の声を響かせた。
担ぎ手に向かつて消防用のホースも動員して水を浴びせる「水かけ祭り」は本祭り同様で、8月12日の日曜日には江戸の昔の再現を楽しむことができた。
その神輿を先導するのが、手古舞の女性たち。今年は13人がそれぞれ名前を記した弓張提灯を左手に、口元を隠す扇子を右手に、木遣りの声を上げながら、見物客の関心を集めた。頭にカツラをかぶり、花笠を背に、格子模様のたっつけ袴、足元は濃紺の足袋に草履のいでたち。この手古舞は、もともと辰巳芸者の名前で知られる粋なお姐さんが担っていたが、現在では江戸時代以来の歴史と伝統を誇る「辰巳芸者」は姿を消して、手古舞は氏子の中から高校生、大学生やOLなどの希望者を募り、引き継がれている。
この手古舞を指導しているのが、置屋「君代紫」を切り盛りして「踊りの名手」と名をはせた君子姐さん=本名・丑井美代子さん(84)。お祭りを機に門前仲町で、手古舞いの由来や辰巳芸者の盛衰を聞いた。手古舞保存会の中でも、伝統と歴史を知る唯一の指導者として、祭り前後は忙しい日々だ。
丑井さんは浅草生まれで、戦災で焼け出されたため、永代橋に近い江東区佐賀町に移ってきた。中学校卒業後、従妹が経営していた縁で、門前仲町の置屋「君富久泉」で雑用などを手伝うようになり、昭和27年、18歳で半玉としてお座敷に出た。置屋「君代紫」として独立したのは昭和41年、33歳の時だった。

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