講演「いま、なぜ田中角栄なのか」-4

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特別寄稿第2弾

講演「いま、なぜ田中角栄なのか」-4

高尾義彦
=「人生八馨」一六年秋季号・第八巻掲載から抜粋

「レジュメ」-2

本論である「いま、なぜ田中角栄なのか」というテーマですが、石原慎太郎さんが執筆した元首相の自伝的な小説 「天才」 の感想を中心にお話しします。何度か新聞に掲載された広告の切り抜きをいくつか持ってきましたが、「二〇一六年上半期ベストセラー総合一位」 「九〇万部突破」などと宣伝しています。
石原さんは、田中金権政治などを厳しく批判し、自ら台湾派だったので、元首相の最大の功績ともいえる「日中国交回復」にも反対していた政治家ですが、広告では「この歳になつて田中角栄の凄さが骨身にしみた」というコピーが使われています。
著書がベストセラーになつて、石原さんは、いま、「角さんに対する一種の罪償い」「日本がこれだけ機能化できたのは角さんのおかげ」と、日本列島改造論などの成果を持ち上げる。確かに「雪深い新潟の庶民の幸せを考えて政治家として出発した」元首相の原点を考えれば、「愛の政治」と評価することも納得できるかもしれません。
ただこの小説を読み始めて、本当に作家・石原慎太郎が書いたのだろうか、という違和感が最後までぬぐえなかつたというのが、感想です。いろんな資料や他人の著書を下敷に、自分の解釈をやや独善的に付け加えているということでしょうか。
この小説は元首相が 「俺」 という主語で語る自伝形式をとつていますが、内容は元首相に関するいろいろな出版物を引用する形で成り立っています。ここに「角栄の『遺言』『田中軍団』最後の秘書 朝賀昭」(「角栄のお庭番 朝賀昭」改題)」という本があります。これは、かなり若い後輩である中澤雄大記者がまとめたもので、「側近である秘書が見た元相像」という資料的価値のあるものですが、石原さんはこうした本を下敷きにして小説「天才」を書いています。

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風の盆 話題にすれど いまだ見ず

富山市八尾は三日まで静かな踊りの波が町を覆う。二〇数年前に浦和のある女性が、眼をきらきら輝かせて八尾体験を話してくれた時に、初めて風の盆を知った。カラオケで菅原洋一さんの「風の盆」を歌つたりする。