講師の挨拶・高尾義彦

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はじめに

無償の愛とビールの泡につぶやいて

俳句の世界に私が深く入り込むことになつたきっかけは、この一句だつた。
六年前の二〇二年五月にツイツタ一に登録して、最初に書き込んだ俳句だつた。

これはその日に生まれたわけではない。ウェブ上の銀座一丁目新聞(元スポニチ社長、牧内節男さん主宰)が開いていた「銀座俳句道場」にメール投稿した作品で、選者の現代俳句協会副会長、寺井谷子さんは二〇〇一年八月、最優秀賞ともいうべき「天」に
選んでくれた。

ツイツター一日一句を目標に、生まれた俳句や俳句もどきは二千句を超えるが、いまだに、これ以上気に入っている句はない。
『無償の愛をつぶやく 河彦のツイツター俳句』を二〇一四年に出版した際、タイトルを「無償の愛」としたのは、この言葉が浮かんだ時の心情を大切にしたい思いからだつた。

門前仲町の和風の店「久寿乃葉」で、窓から大横川を眺めながら呑んでいて、ふっと天から降つてきたような気がする。
「無償の愛」の意味合いは、時の経過とともに微妙に変化したが、自分の精神構造の基本部分にこの気持ちを据えることで、心の「安心」「安定」が得られてきた。

『無償の愛をつぶやく Ⅱ』の出版にあたり、同人誌『人生八聲』に掲載したエッセイを転載し、俳句と抱き合わせる構成とした。
『人生八聲』は木戸湊・元毎日新聞主筆が発想し、毎日新聞OBを中心に季刊で発行、二〇一七年春季号で一〇巻に達した。新聞記者として、現役時代に書き残したことや、現在、世界で起きているさまざまな事象に対して、それぞれに「喜怒哀楽」を表現する。

この本は、六月で七十二歳を迎えた自分の履歴書でもある。収録した十二編は、ロッキード事件など司法記者として携わつた事件や東日本大震災の津波に襲われた三陸鉄道、故郷・徳島の忌部の歴史、下町の風情と最先端の高層マンションが一体となつている
佃・月島の人情などがテーマ。「人の縁」と「無償の愛」が交錯して、いまの自分の生活がある。

新聞社退職後も毎日新聞に寄稿し掲載された書評・人模様計五編と、月刊小冊子「味の手帖」に執筆したコラムも収録した。会社人間四八年の区切りを記念した一冊に、という思いも込められている。

以上が 『無償の愛をつぶやく Ⅱ』の挨拶文です。このコーナーに興味を持って頂けたら筆者も満足です。
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