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「富家孝著・SB新書「死に方」格差社会より}
第7章 信頼できる医者の探し方、選び方
外科医は手術の技術によって評価される-3
そういう意味で言うと、じつは外科医の「旬」は、あまり長くない。個人差はあるにせよ、外科医の心技体が充実するのは、おおむね35~55歳と考えられる。
私の知人のある消化器系外科の医者は、いまでも手術前に最新の解剖学の本を必ず読む。
彼は、学会の権威でもあり、消化器のことなら知らないことはないと思われ、どんな難手術も簡単にこなしているように見られている。だが、本人は、「手術はそれほど簡単なものではない」といつも言う。「毎回、患者さんによって違うので、正直恐ろしい」とホンネを漏らす。そこで、恐怖心を抑え平常心でいるために、本を読む。つまり、彼は常に初心に帰るべく解剖学の本を開くのだ。私はこういう己を知る、謙虚な医者を名医と言うに
ふさわしいと思う。
それなのに、世間一般では、いまだに権威があるとされる大学の、しかるべき地位にある人を名医としたがる傾向が強い。たとえば有名大学の講師というだけで、手術の腕とは関係なく関連病院の外科部長に迎え入れられる、などという例がよくある。大学医学部には官僚世界の天下りシステムにも似たセーフティネットがあって、そんなことがまま起こる。
数ある医療事故のなかでも、そうした経験の浅い有名大学出身外科医の凡ミスは、実際に少なくない。
名医には、世間的ヒエラルキーによる権威はまったく意味がない。事実上、自己申告で獲得できる「認定医」や「専門医」などの肩書きもほとんど意味を持たない。
アメリカ帰りというような世間的な「ハク」も、名医とはまったく関係ない。日本とアメリカではそもそも医療のシステムが違うし、アメリカで本当に成功して富も名誉も得た人が途中で日本に帰ってくるはずもないからだ。