口論ストレス-2
井戸端会議の効用
ご婦人方のストレス発散、情撃父換、グチと悪口いいたい放題の集いであった井戸端会議なる言葉が死語になって久しいが、これは都会に井戸なき現在やむを得ない。
下町に住む知人は猫の額ほどの庭に古井戸を所有していたが水が枯れて井戸端会議も出来なくなっている。だから人も集まらない。
井戸端会議は亭主のこきおろしに始まって口論で終わるのが望ましい。アメ玉しゃぶる幼児を背負い、着物の裾をはしょって洗濯板に洗いものを乗せ苛性ソーダの臭気ぶんぷんの洗濯用工業石鹸などをぬりたくり、口角泡をとばしながらまず自分の亭主を「うちの宿六が」と、軽蔑の口ぶりでそれとなく自慢話をはじめる。
「どこで飲んでくるのか酔っぱらい亭主が白粉のにおいを身につけて帰って釆て、嫌だというのに何度も抱くんだから」
「へえ、そうかい。そりゃあ多分、どこぞの女狐にふられて帰って来てヤケ抱きしたんだろ」
「それがしゃくなのよ。三回も腰をぬかせたんだっていうんだから、白状させて損しちゃった。それでゆんべは大ゲンカさ」
「へん、そんな見栄っぱりはよしな。おまえの亭主なんかに抱かれたひにゃ欲求不満でひ上がっちまうよ。おまえがいう抜か三どころかいつだって七こすり半だった」
「なんだと。いつ寝取ったんだ」
「おまえがあんまりいつも自慢するもんだから試してみただけさ。もうこりごり、よっぽどうちの亭主のはうが達者だよ」
「けっ、大ボラもいいかげんにおし。おまえんとこのムダ飯食いなんか、早漏で短小、折れエンピツ、どこがいいもんか」
「ちくしょう、いつのまに」
「やかましい」
と、背の赤子の泣きわめくのも気にせずがなり合い。健康的だがこれもいじましい。それでも翌日にはまたケロッとしている。
現代はすべて近代化、井戸端会議が絶えたらコインランドリー端会議はどうだろう。
ところが、アパートの家賃滞納、麻雀のツケ未払い、仕送りなし、アルバイト切れ、単位不足、インスタントラーメン常食で栄養不足風学生さんがコインランドリー作動中、少年マガジンに読みふけっていて声もない。
室内にはそんなのが数人で無言。不気味としか言いようもない。パンをかじりながら哲学書を読んでいる学生もいる。
一見、婚期遅れ風OLもいたりする。
掃除、洗濯、料理と三拍子揃ってダメな証拠には手にマクドナルドのフィレオフィッシュ、髪の毛にゴミが付いている。
だいいち、周囲の男たちが誰も声もかけず無視、これだけでも結婚に難あると見て間違いない。それでも「世の中複雑なことだらけ」いつか相思相愛で結ばれてゆくから恐ろしい。
しかも、この手にかぎってけっこう小マメで甲斐甲斐しく働くイイ男を捕まえるのだ。