くれないストレス-1
(亭主の収入が増えてくれない……)
ストレスと平均寿命-1
「紅(くれない)」とは、べにばなで染めた赤色をさし、古くから口紅などにも使われている。ご婦人がお化粧をするのは変身願望の一つの現われで、口紅をさすことはストレス解消の一手段なのである。
「暮れない」というと南極大陸の白夜か都会の夜のこと、六本木、原宿、新宿、若者の群れている街はつねに不夜城。赤坂などはカツコだけいいが、もはや暮れている。
なにしろたそがれはじめた年齢の男たちがストレスを背負って同類の排御する満員電車的夜の街に出没したとしても、所詮は飲み疲れ、歩き疲れ、散財疲れ、その上に卓一丁ない疲れ、などという厄介な副産物も抱えこんだりする。
しかし、それでもなお夜になるとゴキブリよろしく「暮れない」巷灯を求めてストレス解消に出向くから不思議なのだ。
「繰れない」となると大変、事業か家計か、ともあれ、やりくりがつかないのである。
これはもうストレス解消に鴨居にロ与をくくりつけ輪の中に首を入れてブランコをするのが何よりも妙薬だが、最近の建築物には鴨居(障子=細かい枠に紙を張った屋内のしきり=などを立てるための上部の横木)すらない。したがって資金不足の分だけストレスが溜まり、借金に駆けずりまわるエネルデの損失分だけ疲労も溜まることになる。
ならば、借金に駆けずりまわらず、歩きまわったらどうかという人もあろうが、そうなると車でまわったら?とか、電話で済ませたら?と異論が百出、ここは、駈けずり…にしておいていただければ有難い。
「呉れない」、これが問題なのだ。問題だから当然解答がはしいところ、ところがなかなか解答が得られないからストレス過剰になる。しかも王婦側の出題ときている。
「亭主の実が増えてくれない」に始まり、「停主(この場合は亭主ではない)が出世してくれない」「亭主が欲しいものを買ってくれない」「亭主が旅行に連れていってくれない」「亭主が夜の要求を満足させてくれない」「亭主が日常の話を聞いてくれない」「亭主が自由な時間をくれない」 「亭主が外泊を認めてくれない」「亭主が浮気を認めてくれない」「亭主が若いツバメとの同居を認めて
くれない」 「亭主がスワッピングに参加してくれない」 「亭主が離婚してくれない」……etc。
これみな実際の相談内容から抜粋したものだから恐ろしい。
亭主側としては、「ヤガマジイ」と、ヤスジ風に魚の小骨付きミソッ歯をムキ出しで文句を言いたいところだが、相手が相手だけにできるだけ穏便に済ませたいのが建て前、本音は奥歯キリキリだが声も小さく活字も小さく、 「しかしですネ」と、おだやかに、猫なで声できり出さねばならない。生命あってのものだねである。