花見正樹のストレス・エッセイ
読書ストレス-4
中年のヤケ読書
我ら中年族は今更速読法でもないから相変らず本を読むペースは遅いし目も悪くなる。それでも本は買う。昔からの習慣で何となく印刷物に目を通していないと不安なのだ。書店からみるとカモになる。店員がもみ手をしながら接近し周囲を気にしながら囁く。
「だんな、いい本がありますよ。『努力しないで部長になる道』、『女房の束縛から完全に逃れる法』、『この本読んで億万長者』が入荷しました。早い者勝ちですがどうします?」
「今度は大丈夫かね、先週購入した 『地震に絶対生き残れる』は地震前の海外移住、『株で損せず株を楽しむ』は銘柄別チャートづくりを趣味にして絶対に株の売買に手を出さない、それに先々週は……」
「今回は本物ですよ。ほら目次を見て下さい。ちょっと目を通して下さい」
「なになに『堅ぶつ根くらは係長どまり』『周囲のOLにモテるコツ』……うん、これは一読の価値がありそうだ。つぎは? 『女房が不美人ならあなたは幸せ』、なんだか逆説的だが該当者として見逃せないな。つぎは何だって 『手持ちの輸入品の価値観見直し』、まあ円高差益を身のまわりからということか、でも輸入品は土産に貨ったタイピンぐらいだ。『寄付金集めで一財産』、『人のアイデアで仲介料稼ぎ』、せこいけど読むか」、結局買う破目になる。これで、読みたい小説があって本屋に立ち寄ったことを忘れて棚のゴミを増やすばかり。
読書は人それぞれTPOがあるのは当然だが、性格が出るから面白い。
ハウツーもの専門の万年係長補佐氏、教養書専門の哲学的学究型窓際氏、娯楽書(とくにマンガ)専門のコンピュータ技術者氏、数読み誇る役所勤めヒラ氏、グラビアヌードで購買欲を
そそられるという高校教師氏、どっぷりと推理小説の虚構の世界に入りこんで抜け出せない大学生、人さまざま、読書さまざま、「読書しないと時代に遅れる」 「面白くなきゃ本じゃない」
「読書は心の栄養」 「読書は擬似体験」 「読めば一発ストレス解消」「暇つぶしは読書に限る」「忙しい時こそ読書の余裕」「本を読まなきゃモテない」、これで、ついにヤケ酒ヤケ食いに対抗、ヤケ読書となる。