対人ストレス-2

 長寿の秘訣の第一は、ストレスを溜めないことです。

ストレス解消、病気知らずで楽しく長寿!

花見正樹のストレス・エッセイ

対人ストレス-2

妙手の発見が第一

さて、かの有名なセリエ博士のストレス学説のイロハによると、成人病や現代病のはとんどすべてが、日常生活の中でのストレスという刺激から起因するといわれるだけに、さらにその原因となるストレッサー(因子)を探り出し、それを撲滅するか、なだめすかして軟化させるか、なんとか成人病予防のための手段を考えねばならないのは当然の理。なれば、まず、対人ストレスにしても相手あることだけに、その対応策に妙手を発見することが第一、そこで実例を、ということになる。
中央区丸の内にある帝国ホテルといえば、かつて国際的にも知られた旧名門ホテルだが、最近それ以上に有名なのが隣接のツインタワービル、そのビルの上階のかなりのスペースを占拠するA社、前身は化学系会社だが、今は多角経営で医薬から食品等多方面にわたり事業展開は急、発展途上国から先進国へと躍り出たところ、今や上層部の鼻息は荒い。
社内の機構改革もめまぐるしく、デスクの移動などは日常茶飯事、一日休んだら机が窓際に転居など枚挙にいとまがない。
しかも、ピカピカの机の上には、デーンとOA端末機、ナニ様のつもりでか「控えーい」とばかりにふんぞり返っている。
中年男性出世イマイチ組にとって、まったく憎っくきは、このコンピュータなる代物、あのディスプレイは必ず上向き85度あたりでふんぞり返っているから生意気、たまには礼節を尊びおとなしくお辞儀をしていろ、といいたくもなる。
A社の場合は技術革新の波もさることながら、組織改革による人間関係の急激な変化による精神的・身体的疲労の蓄積に耐え切れない社員が多発しているから問題である。
人生相談付ストレス解消サロンである私の銀座オフィスに出入りしている方の中で人間関係の葛藤が顕著ナンバーワンなのが、このA社であることはまぎれもない事実。技術革新や情報革命などは時間と努力で克服できるが、どうも人間の好き嫌い、相性のまったく合わない同志の慣れ合いは難点の多いもの、時間の経過とともにむしろ悪化する一方だから始末が悪い。
A杜営業部勤務のK氏は元部長代理、部下にやり手の課長がいた。業務成績抜群でタフ、上下の信頼も厚い。ことあるごとに社内会議で優良社員として例に上がる。
そこで本来はK氏の株が上昇して然るべきなのに、生憎と社内では部下の人気が上がるにつれてK氏は無力との評価、同僚との折合いも悪く、上司も部下と直結してK氏はツンボ桟橋、重役会での評価もK氏に冷たく、ある日、突然の辞令で、部下のT課長が部長に二段とびで昇格、一気にK氏の上司になったのである。
晴天のへきれき、脳天の打撃、それからの日々はK氏にとっては地獄の沙汰。毎日神経くたくた、ズボンよれよれで、深酒ハシゴで深夜のご帰館、夫婦仲も一気に悪化、社内の人間が皆、敵に見えるだけでなく、家族の視線さえも冷ややかに見え、深夜、団地のドアを叩くと隣家の住民が戸を開けて睨む目つきも気にくわない。
というわけで、人に会うのが嫌になり、前述の如く出社拒否症、私のオフィスに逃げ込んで来た。
話を聞いてみると、とに角まじめ人間であることは確か。会社を休んだことが気になり、子供との野球観戦の約束をホゴにしたことが気になり、妻と週二ペースの約束が果たせないことが気になり、という具合になにもかもが気になるばかり、これではストレスどころかノイロー ゼ症状、通院一歩手前ということも間違いない。
しかも、どれもこれもがつまらないことばかりなのに気づかない。一生という長丁場で考えたら一時期の出世レースで遅れをとったからとて何の嘆くことがあ  ろうか。
「ヤセ馬の先っ走りということもありますよ」から始まって、「私など週二どころか、さっぱりですよ」というあたりから、徐々にA氏の顔色に赤味がさし、水割りを飲み、豪雨と落雷,小鳥のさえずりにいたる自然音のカセットを聞いている内に、どうやら自分をとり戻したようす。当然ながら顔も上向きになり、本来の倣慢さもチラチラ視えかくれする。
「仕事よりも周囲の人間関係の改善が必要なときかも知れませんが、逆に、周囲など気にせずー生懸命、一つ一つ自分の仕事を固めることに専念してみてください。仕事が終わったら、あとは仕事を忘れて本気で遊ぶことも必要ですよ」      一、一( ストレスには仕事のし過ぎなどによる疲労からの内面的ストレスと、欲求不満などによる外的ストレスがあり、K氏の場合は、出世欲と競走意識による人的葛藤の外的ストレスと、まじめ人間特有の内的ストレスの両面からの苦悩がプレッシャーとなってのしかかっていたものです。
今、K氏は奥さんと週二ペースに戻って、会社ではマイペース、終業後は新たな飲み仲間と大いに羽を伸ばしている、と聞く。