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新選組友の会ニュースでは、新選組に関する記事や会員の投稿文などを掲載しています。
その中には、一過性で忘れ去られるには惜しい記事や随筆もあります。
それらの力作を多くの人に読んで頂きたく、随時掲載して参ります。
新選組友の会主宰・大出俊幸
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今回は平成二十年四月・二一五号からの掲載です。
『燃えよ剣』を読む
赤間 均
七 創られた思い人お雪-2
時代は急変する。徳川慶喜の大政奉還、それに続く王政復古、新選組は京を離れ、伏見奉行所に本陣を置いた。土方は、お雪
に別れの手紙を書いた。手紙には、「武士らしく会わずに戦場へゆきたい」と書きながらも、「会えば自分が変わってしまうかもしれない」と書いてあった。お雪は、ひと目見てから別れたいと、二度、伏見を訪れたが、逢えずにおわった。
翌年の慶応四年一月三日、鳥羽伏見の戦いが始まり、幕府軍は思いがけず惨敗を喫し、新選組も将軍のいる大坂に敗走した。
幕府軍は江戸に戻ることとなり、新選組も富士山丸に乗船し、帰ることが決まった。
出帆する二日前、代官屋敷近くの松林で、土方は近づいてくるお雪に出逢った。土方は代官屋敷に急いで戻り、紋服に着替える
と、再びお雪のいる松林へ行った。抱き寄せる土方に「うれしい」と応じた二人は、夕陽ケ丘の西昭庵という料亭におさまり、
二夜を共にする。
「『私は、(中略) いつの場合でもひとに自分の本音を聞かさないようなところのある人間だったようにおもう。過去に女
も知っている。しかし、男女の痴態とい うものを知らない』
『……そ、それを』
お雪は、武家育ちで、かつて武家の妻だったことのある女なのだ。眼をみはっ た。」
しばらく、行きつ戻りつした後に、お雪は言った。
「『雪は、たったいまから乱心します』」お互い、抑えてきた感情が、激流となってあふれ出した瞬間であった。
それから一年四か月、土方は、甲州路、宇都宮、白河、会津で戦い、仙台から旧幕臣の榎本武揚の軍と合流して、箱館の地で、
最後の戦いを迎えようとしていた。
箱館にある鴻池支店の支配人、大和屋友次郎から思いがけない言葉を聞いた。支店の別館にお雪を連れてきているというので
ある。土方は馬を走らせ、洋館である別館の二階で、お雪を抱きしめ、唇を押しあてた。その日、 二人は命の限り愛し合う最後の夜を過ごした。
「もはや、歳三には、死しか未来がなかった。