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新選組友の会ニュースでは、新選組に関する記事や会員の投稿文などを掲載しています。
その中には、一過性で忘れ去られるには惜しい記事や随筆もあります。
それらの力作を多くの人に読んで頂きたく、随時掲載して参ります。
新選組友の会主宰・大出俊幸
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今回は平成二十年四月・二一五号からの掲載です。
『燃えよ剣』を読む
赤間 均
七 創られた思い人お雪-1
お雪は、大垣藩の江戸定府で御徒士を務めていた加田進五郎の妻。京の警護を命ぜられた夫のあとを追って上洛し、町住まい
をしながら、四条円山派の絵師に絵を習っていた。ところが、夫は病死してしまった。
江戸の実家に帰るのが本来の姿であるが、実家が寛永寺の坊官なので収入が高く、その仕送りがあるので、何となく京に留まっていた。
話は、土方が七里研之助らに襲われたときに戻る。土方は、左腕と右腿に傷を負い、露地に逃げ込んだ。消毒のための焼酎があれば、そう思ったときに、頭上の小窓が開いた。
女は、格子戸から土方を招き入れ、所望された焼酎と傷薬だけではなく、亡夫の紋服、羽織、袴、嬬祥、晒の入ったみだれ籠をも差し出す。
傷の手入れを済ませた土方は、紋服に手を通し、いずれ礼に訪れることを告げ、辻駕籠に乗った。その女の名は「お雪」。土方にとって生涯忘れられない名となる。
年があらたまった慶応二年春、土方は用事のあるふりをしてお雪の家を訪れた。それ以来、何度も訪れるようになったが、お雪のことを哀しくなるはど想っていながらも手も握らず、世間話を饒舌にして帰る男となった。
「(このひとは……別の自分になるために此処にぎている)」
そう、お雪が感じるほどに。
六月、お雪を訪ねた土方は、そぼ降る雨に濡れる庭の紫陽花を見ていた。
「一つ屋根の下に静もっていると、ふと、ながい歳月をおくってきた夫婦のような気がする」
そう思う土方の心に大きな変化が起こる。公用で江戸に行くが欲しいものは、と土方が聞いたときの話である。
江戸にしかない「たたみいわし」と答えたお雪に、「いいひとだなあ」と土方は返した。その言い方が不満で問い詰めるお雪。
「そんなことばかりいうと、つい、抱いてさしあげたくなる」
「抱いてくださってかまいませんことよ」
初めて二人は一つになり、土方はその後、別人のように、やさしい眼になった。