ヨガ教室
奥山 礼紫
自宅近くのスポーツジム内にあるヨガ教室に通い出したのは20代の頃。
当時は軽快な音楽に合わせてエクササイズするエアロビクスが人気で、レオタードにヘアバンドの活発そうな女性たちで賑わっていた。
その明るい活動的なイメージのエアロビクスとは真逆のどちらかというと暗いイメージのヨガ教室に通うことに決めたのは、未知の世界への興味。単に好奇心であったからだと思う。
初めてのヨガレッスン。Tシャツにジャージの飾り気のない先生の装いから、シンプルな印象。5人ほどの生徒は全員女性。30代、40代年齢層に幅があるように思えた。
音楽もなく静かな教室で、目を閉じ座禅を組むと、お腹に沢山の空気を吸い込んで、お腹がペタンコになるまで息を吐き出す腹式呼吸から始める。
鼻から息を吸って口から細く長く息を吐きだす腹式呼吸を繰り返していると、自分の呼吸にどうしても意識が集中してくる。
ただ吸って吐いての呼吸を繰り返しているだけなのに、それがとても心地良い。
体のあちこちに余計な力が入りこわばっていたのが、スーと力が抜けていく感じがする。
ヨガの先生がチーンと金の音を鳴らす。目を閉じているため聴覚が敏感に反応する。
「次々に湧き上がる心の雑念が静かに流れていくのを意識して・・」
目を閉じ座禅を組んだ時には、まだ落ち着かず心が定まらなかったのが、呼吸を始めてから不思議なスピードで整ってきた。
ヨガには、上向きの犬のポーズ、下向きの犬のポーズ、ワシのポーズ、木のポーズ、三日月のポーズと自然由来の名前が多い。名前から想像できるようにシンプルで無駄のないポーズが多く難易度はそれほど高くない。
しかし雑念が頭をよぎり、体のバランスを崩すと途端にポーズも崩れていく。
「心ここにあらず」の状態が自分でもはっきりと目に見えてくるのである。
社会に出たばかりの20代の頃は、仕事に悩み、人生に迷い、心に葛藤を抱えていたので、雑念が次から次へと湧いてくる。週2回のヨガ教室でそんな自分の内面に気づき、反省したり、考え過ぎていることを考え直したりと心と体のバランスを整えていた。
最後にシャヴァーサナという亡骸のポーズ。
これは全身の力を抜き、ただヨガマットの上に横になって寝ているだけである。
「両足、体、両腕と順番に深く沈み込んでいく感じ、頭の中の悩みが遠くへと離れていく」
先生の表現がぴったりとあてはまるように、心と体が静かに深く沈んでいく感覚に心の疲れも体の疲れも消えている。心と体がつながった。
単なる好奇心で通い始めたヨガ教室に、知命を過ぎた今も通い続けている。
その時々の年齢で考えや悩みも変化しているが、これからも生きている限り心の中の雑念は消えないであろう。
レッスン後の帰り道の清々しさに「ナマステ」ありがとうの気持ちで今日もヨガ教室に通う。