懐かしい学生寮、母の想い出
新海 美智代
月日の経つのは早く今年も残り1ヶ月ほどとなりました。年のせいもあるのか、あるいはコロナ禍で毎日代わり映えしない日々の生活だからか、ともかく日々の過ぎるのが早く感じているこの頃です。
コロナ禍で最近移住する人も多いという事でテレビ番組でも移住した人たちの話題が放映されています。
山梨の地にも首都圏から移り住む人が増えているとは聞いています。山梨は空き家がかなりあり問題になっています。富士五湖方面や北杜市八ヶ岳方面には都会から移り住む人もけっこういますが私の住む甲府ではそういった事があまりないのか空き家が増えるばかりです。甲府駅より北側の武田の史跡が多く点在している地区でもかなりの空き家があり市でも困っているとは思います。
我が家も駅北側の地区にあり、今は使わなくなってしまった学生寮がつい先日まで自宅の隣にありました。これは昭和48年に私の父母が住んでいた群馬から甲府に転居し自宅を建築した折に、ちょうどそこが山梨大学のすぐ近くだったという事で父が働く事に合わせて学生寮を同じ敷地内に建てて私と姉の教育資金に充てようと計画したものでした。私は15歳、高校に入る直前の事でした。それから沢山の学生さんがこの学生寮で生活し巣立って行きました。
父が早くに亡くなりその後は母が学生寮を続けてきましたが、やがて時代が流れるにつれ我が家の学生寮の様に共同風呂、共同トイレといった作りではなく全て完備されたワンルームのアパートなどを希望する学生さんが増えていきました。平成になった頃からはほとんど入居者もいなくなり、やがて7部屋ある学生寮もほとんど空き部屋になりました。母はそんな学生寮の1部屋に昼間だけ自分の好きな裁縫、絵画などをして過ごしていました。そしてとうとう入居者が誰もいなくなって暫く母の専用になっていた学生寮も10年ほど前に母が亡くなってからは空き家状態となってしまいました。
建物というのは使わないと早く痛むもので、その学生寮も外側がだんだん傷みだしてきていましたが手を入れても使い道もないので悩んでいました。私はこの学生寮をこのままにしておいて子供達に託すのもふびんかと思い、壊すなら私達の代で壊していかねばと年々強く思うようになりました。
そんな中この8月頃から急に気になり始めたので、崇敬している神社の名誉宮司様にその事をご相談しましたら「もうしっかりとお役目を終えていますから取り壊したら如何ですか?」と言われたので、それであれば来年の2月でちょうど築50年になりますからそれ以後にとお話すると「いや!そこまででなく直ぐにでも良いですよ。業者の方達も忙しく中々やってくれないみたいだから早めでいいのではないですか!」と言われました。
それですぐに決断して業者にお願いして解体工事が11月7日から始まりました。
学生寮が長い間私達の物置代わりになっていましたから片付けが大変!おまけに母の物も10年かけて片付けてきたとは言え、かなり残っていましたので片付けにはかなりの日々と時間を費やしました。そこで学んだ事はこれからは物を出来るだけ増やさず終活の一つとしていらなくなった物などは出来る限り片付けていき、子供達に迷惑が掛からない様にしていかなければならないという事です。
寮内の物の処分も大体終わりいよいよ解体工事が始まる朝、何時ものように玄関や家の周りをを掃き清めしていると、私が15歳の時に初めて祖母と二人でここ甲府にきて住み始めた時のことを思い出しました。この学生寮は自宅の完成より先にできていて自宅が完成してからくる予定の父母よりも先に甲府に来た祖母と私は少しの間この学生寮に暮らしていたのです。それから50年がたちいろいろな思い出が走馬灯の様に脳裏に浮かびこみ上げて来るようで目頭があつくなりました。そして学生寮に感謝の気持ちを込めて別れを告げました。
解体工事屋さんが来て作業が始まると今は法律が厳しくて全て分別処理をしなければならず最初は全部手作業行っていました。それが終わり段々と壊されて行く学生寮を見るとやはり別れは告げたものの一抹の寂しさを感じざるを得ません。身近な皆さんからまだ使えるのに!と言われたりもしますが、解体しないでいつまでも空き家としておいておく事のできない大きな学生寮の問題や、これがあることにより跡を継いだ私にかかっていた父母の大きな重みがなくなっていくのだと考えるとこれで良かったのだと思います。
父母が作った物がまた無くなり一つの時代が終わった‼ これからは私の自分の時代を過ごして行こうと考える気持ちになりました。多分亡き父母もそれでいいんだよ。って言ってくれていると思います。何代も続いた家でなくたかが一代でも跡継ぎとして家の跡をやって行く事の重みを感じこれで肩の荷が降りるのかという気持ちです。
私と同じ様に跡を継がれている皆さんはいかがでしょうか? 時代も変わってこの様な跡継ぎ問題も変化していくのでしょうか?
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