事の顛末はこうだ。
目にうるうると涙を溜めながらチハルは話し始めた。
中学校に入学した日。ドキドキしながら教室に入り、隣の席がその子、アイだった。
きっかけなんて今では覚えていない。アイとチハルはお互い緊張しながらもどちらともなく話しかけたのだろう、気付いた時にはもう友達になっていた。
それからは何をするにも一緒に過ごした。クラスも一緒、部活も一緒、帰り道も一緒。休みの日でもお互いの家で一緒に勉強したり、近くにできた大型ショッピングモールに通い詰めたりしたものだ。
2人でいれば何も怖いものなんてなかったし、親にできない恋の相談だってした。お互いがお互いの占い師みたいなものだ。そんな関係がこれからもずっと続くと思っていた。
きっかけはささいなすれ違いだった。
年に一度の文化祭の出し物を決める時、一緒の係にしようと言われたのに、すっかり忘れていて違う係に立候補してしまった。
その係は2人しかできず、ペアの男子がその友達の片思い中の男の子だったが故にさらにタチが悪かった。
「私はその男の子のこと全然好きじゃないしなんとも思っていないんだけど、やっぱりあの男の子の事好きなんだ、抜け駆けだ。相談乗ってくれてたのも利用してただけなんだねとか言われちゃって。否定しても否定するだけどんどん本当っぽく思われちゃって」
そこからどうも顔を合わせても目を逸らされるそうで、どうも気まずい。
「私はアイといつも通り、前みたいに昨日のテレビの話とかどうでもいい話を話したいのに。もう戻れないのかな」
一通り息継ぎもせず話し終えると、チハルはぬるくなったミルクティーをぐっと飲み干した。
「可愛い可愛いお嬢さん、あなたの悩みはきっとこの猫が運んで行ってくれるわ。ね、マメ」
若葉はチハルと、その膝で丸くなる白い物体に声をかけた。
マメは呑気にブアンと鳴いてチハルの膝から軽やかに降りると、店の奥にトコトコと消えていった。
「そうねえ、どこだっけ。これこれ」
ガサゴソと棚の奥からワカバがあれでもないこれでもないと探し物をしている。
さながらドラえもんのような姿にチハルはふうっと気が抜けた。
ワカバがチハルに手渡してくれたのは、キラキラとした包装に包まれたチョコレートだった。猫が丸くなっているようなデザインで、白猫と黒猫の二つがコロリと手の平にころがった。
これこれ。こないだ近所の中川さんが海外旅行のお土産でくれたのよ、とニコニコしながら若葉は話す。
「ね。可愛いでしょう、2匹で丸くなってて」
チハルは目をパチクリさせながら、両手の上で丸まる2匹の猫を眺めていた。