「ありがとうございました、またよろしくどうぞ」
朝の忙しい時間が終わり、客足もまばらになってきた。
「お母さん、お茶にしようよ」
娘の泰葉が若葉に声をかける。その意見には大賛成、時刻は9時になっていた。
若葉は疲れた体をマイチェアにゆっくりと沈み込ませると、口をチチチと鳴らした。するととどこからか太った猫がけだるそうに現れた。看板猫のマメだ。
マメはゆっくりと若葉に近づき、ブアンと一鳴きして定位置の若葉の膝まで軽やかに上ると、ゴロゴロとのどを鳴らして丸くなった。
「この子はどうしてこんなに太ってるのかしらねえ」
マメを愛しそうに撫で回しながら若葉は呟いた。
「お母さんが喜んで猫オヤツばっかりあげるからねえ」
あ、そうだと思い出したように泰葉が続ける。
「なんかマメ、近くの学校で福を呼ぶ招き猫って言われてるみたいよ。ほらこの前来た女の子が言っていたわ。膝に乗せて撫でさせてもらえると願いが叶うんだって」
確かにふくよかなボディと、白く輝く毛並みはさながら招き猫のようだ。
マメ、福を呼ぶなら宝くじ当ててくれえと泰葉が乱暴に撫で回すと、ブア〜ンと気が抜けたような鳴き声がした。こりゃダメだあと二人で笑っていると、カランカランとドアが開いた。
ドアを開けたのは中学生くらいの女の子で、外は寒かったのかほっぺたは赤くなっていた。
「あらあら可愛いお客さま、いらっしゃいませ。何飲む?」
若葉がマメを撫でながら尋ねる。
中学生のチハルは下を向きながら
「ミルクティーありますか」とボソボソと答えた。
チハルは俯きながらカウンターに座ると、そこで初めてハッと顔を上げて若葉を見た。正確には若葉の膝を。
「キャ!!!本当にいた!神様のネコ!」目を丸くしてチハルは声を上げた。
若葉と泰葉は顔を見合わせて、吹き出した。
ーつづくー