「案外筋がいいかもよ」
マルちゃんはいつもの窓際の席にドッカリと座ると、沈み込むように腕を組みながら微笑んだ。
「ゴルフって一回は行ってみたいのだけど、いままでやる機会がなくって。もう遠い世界の話って感じ」
「そんなことない、最近では打ちっぱなしも郊外に行けば沢山あるしね。ちょっとそういうところでチャチャっと練習したらすぐコースに出れるよ」
「またマルちゃんは適当なこと言って。打ちっぱなしのシステムすら分からない私にはハードルが高いわよ」
良い香りが漂うカップをゆっくりとマルちゃんの待つ机に届けると、泰葉は近くのカウンターに腰掛けた。
「東京のゴルフ場は高いし、人が沢山いるし僕は好みじゃ無いんだよね。ちょっと不便なところにあるくらいのゴルフ場のほうが安いし、ゆっくり回れる。今度町内会の催し、ゴルフでもいいかもねぇ。やっちゃん、周りのお店に声かけて豪華賞品にして大会開くのアリじゃ無い?」
「豪華賞品!じゃあマルちゃんのところでドラム型洗濯機か、お掃除ロボット出すのはどう?それか今流行りのゲームなんかにしたら、若い子は食いつくと思うワァ〜」
急に堰を切ったように話始めた泰葉にマルちゃんはついつい吹き出した。
「おれんとこはそんな高尚なもの売ってねぇなぁ〜」マルちゃんはまちの電気屋さんなのだ。
「マルちゃんじゃないと用意できないわよ〜、ほら、うちは、オリジナルワカバブレンドくらいしかないから」
「まーた、あなたはすーぐ物につられるねぇ〜」
奥の座敷でお昼寝していた若葉がのそのそと店に出てきた。
「あ、お母さん、おそよう。うるさいわね、いいじゃない妄想するくらい。」
別にやめろだなんて言ってないけど〜とワカバは口をすぼめた。
「そうだなあ、全自動落ち葉掃き機なんてあったら、この店は大助かりだよなぁ〜」
マルちゃんはちびちびと美味しそうにコーヒーを飲んでいる。
そうなのだ。本当にそれが厄介なのである。
カフェドワカバのすぐ隣には大きなイチョウの木があって、それはそれはとっても綺麗なのだ。しかし秋口には掃いても掃いても道路を埋め尽くしてしまう。
ギンナンが落ちるのもあってちゃんと掃除しないと芳しい香りがしてきてしまう。
「やっちゃんが店の前でホウキ振り回さなくて済むしな。振るならドライバーよ。ドライバー。」
店内にはガハハ、ウフフと笑い声が響いていた。