「ありがとうございましたあ、またきてね」
チハルが帰ったあと、ワカバはぽつりぽつりと話し始めた。
「そうよねぇ、この時期の子達の専らのお悩みはこういう人間関係よね。
世界はもっともっと広いのに、狭い狭い学校の中の悩みでいっぱいいっぱいになってしまう。彼女達の世界は、家か、学校か、その二つしかないから」
まあ、サチオさんの昔話が聞けるなんて思わなかったけどね、とホクホクした顔でワカバは微笑んでいた。
「でも、あのチョコ渡したっきりで何も解決になってないじゃないの。もっとこう、アドバイスとか、色々欲しかったんじゃないの?あの子、えーっとチハルちゃんは」
ワカバは、そうねえ、、、と呟くと、
うとうとこっくりこっくり舟を漕ぎ始めた。
「ああいけない、時間切れだ」
泰葉はふふふと噴き出すと、この店の神様にブランケットをそっとかけてやった。
時刻は14時半を過ぎた頃だろうか。
泰葉が店の前を掃除していると近所の小学校のチャイムが鳴った。小学生になったばかりの子たちの声が遠くの方から聞こえてくる。
もうこんな時間か。伸びをすると固まった腰が悲鳴をあげた。元々腰痛持ちだったが、ここ数年でまた悪化した。原因というものも自分では思い当たらないもので、これが歳をとるってことか、と生命力に満ち溢れ、跳ね回りながら下校する小学生達をぼんやり眺めながら考えた。
腰のストレッチをしながら体を動かしているうちに、なんだか楽しくなってきた。
手に持ったホウキはさながらゴルファーのドライバーか。
両腕にもって、肩や腰から動かすようにゆっくりと降ると、爽快な音とともに凝り固まった腰がほぐれるような感覚がした。
『ナイスショット!』
突然の声にビクッとして振り向くと、徐々に近づいてくる人影が。
丁度逆光になっているものだから目を細めながら見つめると、見慣れた顔がそこにはあった。
「あぁ〜、マルちゃん!」
「あはは、やすちゃん、暇だからってちょっと豪快すぎやしないかい?」
そう言って近づいてきたのはマルちゃんこと、丸山フトシ。近所に住む常連の好々爺だ。
「あちゃー、見つかったか。」
バツが悪そうに泰葉は舌を出した。