龍馬と刀剣ー4

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龍馬と刀剣ー4

小美濃清明
部屋には本がそれと判るところに置いたままになっている。それもー種類の本ではなく何種もあるのであろう。女性が本を間違う可能性があるので、本の外形を図にして書簡の冒頭に載せ、表題を「刀剣図考」と書き込み、寸法まで加えている。横が約六寸(一八センチ)、たてが約三寸(九センチ) である。
さらに本の内容を(太刀の絵がかいてあるナリ)と説明している。
かなり念の入った書き方である。女性への細かい配慮が感じられる。
白鞘の短刀は箪笥の引出しの中に収納されている。本は出したままである。この状況から、用事が済めば龍馬はこの宿に戻って来るつもりであろう。別の宿に移ったとか、旅に出てしまったわけではない。
龍馬は出先で急に『刀剣図考』三巻と白鞘の短刀が必要となった。しかし、龍馬自身がそれを取りに戻ることができない事情があった。そこで筆を取ったのである。
この書簡により本と白鞘の短刀は、女性の依頼を受けた使者によって、龍馬の居る場所へ届くことになる。それも長時間かかる距離ではない。宿から日帰りできる範囲へ龍馬は出かけている。
この書簡は簡単に書いたメモのようなものである。メモであったので、宛名も日付も記入しなかったのである。
この状況全体から感じられる雰囲気に緊迫感はない。龍馬自身に危険が迫っているといった状況ではなく、むしろ「のんびりした日常生活
の断片」といった印象である。
くつろいだ雰囲気の中で龍馬は本と短刀を必要としている。