民放各社にもレギュラー番組-5

幸福を売る男

芦野 宏

Ⅱ 夢のような歌ひとすじ

1、ポピュラーの世界へ

民放各社にもレギュラー番組-5

「当学院学生寮にご出演いただき感謝いたします。お陰様で、はからずも、私の故国の情緒にひたる ことができて大変感動いたしました。かくも見事に私の国のシャンソンを解釈しえたあなたの技量には、敬服のほかありません。一フランス人として、このように立派に私たちの祖国の芸術を、日本の聴衆に鑑賞させてくださることに対して私はただただ感謝の念にたえません。……」   ジャン・ルキエ(東京日仏学院長)
しかし、ときにちょっと困ったこと(?)も起きた。毎週水曜日の夜八時半から放送されているラジオ東京の『花椿アワー』と文化放送の『モナ・キューバン・タイム』が同じ時間帯で、準レギュラーの私は裏と表の番組で同時に出演する回数が増えてきたことである。新聞のラジオ欄を見ると同時刻に芦野宏の名前が出ているのである。『花椿アワー』は二年近く続いたと思う。
ラジオ東京、文化放送より少し遅れて昭和二十九年 (一九五四)、日比谷に開局したニッポン放送ではシャンソン化粧品がスポンサーの 『シャンソン・アワー』 が始まっていた。レギュラー出演の話がきて、毎週月曜夜十時半から、私のピアノの弾き語りとナレーションで構成する、二〇分の番組である。なにがなんだかわからないほど忙しくなったが、私は相変わらずフランス語の先生について新曲の練習に余念がなかった。この番組では、弾き語りで、「失われた恋」「ラ・セーヌ」「ドミノ」「ミラポー橋」など、秋満義孝さん(ピアノ)の伴奏で、「ラ・メール」「詩人の魂」「ケベックの街にて」「マ・メゾン」「カナダ旅行」「パリ察」「パリの屋根の下」などなど数えきれないが、ポピュラーな曲はほとんど歌ったと思う。