夢の劇場出演-2


夢の劇場出演-2

芦野 宏

オランピアの舞台は、意外と間口が狭いのである。
五、六歩で中央まで行けるくらいで、これは練習のときによく計算しておいた。
一曲目が明るいテンポアップの曲だったので助かった。私はにっこり笑いながらこの曲を歌うことが出来たからである。
ワンコーラスを終わると間奏がある。私は思わず身構えてしまった。これまで経験したこともない柏手の嵐がきたからである。
「マ・プティト・フォリー」という曲だが、早口のフランス語で歯切れよく歌えたので聴衆が納得してくれたのだと思う。
全部で四コーラス、そのうち三コーラス目は主催者側の要望で日本語にした。
フランス人は意味がわからなかったはずなのに、このときも温かい柏手を送ってくれた。
四コーラス目のころは、自分でも納得するくらい落ち着きを取り戻して早口のフランス語をできるだけはっきりと発音して終わった。
どっとくる柏手と、「ブラヴォー」 の声援。初めての経験である。空気が動いて舞台に立つ私が、風圧を感じてたじろぐほどであった。 こんなアプローズ(喝采)は、その後インドや南米、もちろん日本でも経験したことはなく、一生に一度の思い出である。
のどの渇きをいやす暇もなく、何度も頭を下げて会場を見渡すと、オランピアの客席は奥行きが深くてずっと先のほうまで超満員であることがわかった。