NHKテレビ 『くらしの窓』-1

幸福を売る男

芦野 宏

Ⅲ 新たな旅立ち

2、お茶の間にシャンソンを

NHKテレビ 『くらしの窓』-1

「くらしの窓」

詞 松岡励子
曲 松井八郎
あかるい朝です あなたの朝です
みんなの朝です おはよう
窓をあけて ちょっとひと息
ちょっと花に水を やりましょう
広い空に あわのように ひろがってゆく
あまいあまい花のかおりが
いっぱい いっぱい ひろがってゆく
あかるい朝です あなたの朝です
みんなの朝です ボンジュール ボンジュール

毎朝九暗から始まる『くらしの窓』のテーマソングである。番組は昭和三十七年(一九⊥ハ一▲ニ四月から四年間続いた。初めて日劇のステージを踏んだとき、レコード会社専属をお断りした件で列大のごとく叱られた松井八郎先生とも和解して、このテーマソングは松井先生の肝いりで作られた。『くらしの窓』はウイークデー五日間の放送だが、私の総合司会と歌の担当は月水食の三回で、ほどなくして午後に再放送されることにもなり、このテーマソングはお茶の間にすっかりお馴染みになってきていた。
NHKの番組担当者からこんな投書を見せられた。「四歳になる子供がボンジュールおじさんの歌をいつも聞いています。私もシャンソンが大好きです。たくさん聞かせてください」。
いつの間にかボンジュールおじさんのあだ名をいただいた私は、番組で三曲歌うなかで必ず子供にもわかる楽しい歌を入れることにした。たとえば「パパと踊ろうよ」とか「サラダのうた」「カナダ旅行」「ナポリの山賊」「かえるのうた」などである。
これらのシャンソンは、それまで日本ではあまり紹介されていなかった分野だったから、全国的に新たなシャンソン・ファンが増えて、やがてNHK『みんなのうた』にも取り上げられるようになり、嬉しく思っている。デビュー以来、訳詞の面でお世話になっている薩摩思さんは、こういった明るいシャンソンをたくさん書いてくださって、シャンソンの暗いイメージを一変し、大衆に近づけてくれた功績に対する感謝を忘れてはいけないと思っている。
また、フランスでは当たり前のことなのだが、ちょっと皮肉っぼいシャンソンや、人をからかった内容のもの、コミックなもの、そんな分野も薩摩さんは開拓してくださり、私もたいへんレパートリーが増えて助かっていた。「可愛いアイルランド娘」「蝶々とり」「ルルウ踊り場のピアノ弾き」 「三文ピアノ」などである。
薩摩思さんは、前にもプロフィールを紹介したが、NHKラジオ歌謡にも「木立の中に秋が
いる」をはじめ数々の名作を残し、テレビの 『くらしの窓』 のなかで私が歌ったシャンソンはデビュー以来のコンビで取り上げ増やしてきた薩摩忠訳のものが大部分を占めている。