幸福を売る男
芦野 宏
Ⅲ 新たな旅立ち
2、お茶の間にシャンソンを
「パパと踊ろうよ」-4
薩摩忠は第四回室生犀星詩人賞、第九回翻訳出版文化賞など受賞。NHKラジオの深夜番組『夢のハーモニー』で朗読される詩を長年担当された。また、教科書や教育テレビに採用された「まっかな秋」「冬の行進」など、童謡や創作歌曲、外国歌曲の訳詞も数多い。こうした活動に関連の深い『波の会』(現「新・波の会」 の前身) の重鎮である。
この会は昭和四十年に声楽家・四家文子(故人)、国語学者・金田一春彦、両先生を中心に1美しい日本語と香り高い歌を」をスローガンとして結成され、芦野宏も会員であり、令王催のコンサートにたびたび出演。
薩摩ファンを自任される金田一先生は、『芦野宏四〇周年リサイタル』のプログラムに一文を寄せられた。
「国語学者から見た芦野さんの歌は、どんな高い声で歌っても、どんなに速〈歌っても、一つひとつの音がはっきり聞かれるということである。これは案外難しいもので、ソプラノ歌手などの中には、ただいい声でいい節で歌うということにばかり心が行って、聞いていて歌詞が全然聞きとれない人がある。
これは勿体ないことで-というのは、日本語は世界で類のない美しい言葉で、例えば『枯れ葉』という言葉はフランス語では、Lesfeu≡esmOrteSというが、これは『死んだ葉』と言う意味だそうだ。
ぁの有名なシャンソンを日本語に逐語訳したら、♪死んだ葉よ……となるそうだが、それはまずい。H本語には『死ぬ』のほかに『枯れる』という言葉があるので、♪枯れ葉は……と薩摩思さんの名訳がつき日本人の心をとらえたと思う。
日本語訳したシャンソンはそういう言葉で訳されていると考えれば、芦野さんのように言葉がはっきり聞き取れるように歌って下さることは、私たちにとってたいへん有難いことだと感謝尊敬している次第である」。