開運道・築地サロンの小話
~50万円の灰皿~
開運道築地サロンは、何の取り柄もないマンションノの13階の一室です。
その何の取り柄もない部屋から眺める景色はなかなか捨てたものでもありません。
例えば、正面から眺める東南に見下ろす本願寺側の夜景などは毎日でも見飽きることがありません。
では、こちらの北東の表鬼門側にある景色はいかがですか?
私は、この小さなテラスでコーヒーをのみながら景色を眺めるのも密かな楽しみなのです。
密かな、というのは、これを知られると、来客の尻が重くなるから、ここは私だけの楽しみにしているのです。
遠く東京スカイツリー、眼下には地下鉄日比谷線2番出口、小学校の校庭があり、桜の季節だけでなく緑にも癒されます。
したがって、ここに腰を下ろして景色を眺めていたら、小さい時間などアッという間に過ぎ去ってしまいます。
ところで、このテラスの上にはガラス製の小さい灰皿と長さ約30センチの楕円形卵型の陶磁器のツボ(花瓶)が置いてあり、ツボの中には、このツボが出展された作家の作品展の色褪せた案内ハガキが窮屈そうに眠っています。
私がこのテラスでコーヒータイムを楽しむのは、この雨ざらしに放置されている陶磁器を眺めていると心が癒されるからです。
他にも築地サロンには曰く因縁付きの花器が幾つかさり気なく造花などを抱えていますが、どれもが穏やかな表情です。
この写真にある陶器は作者・美崎光邦君の受賞作品で、名のある茶器に比べたら遙かに格安ですが、約半世紀弱前に50万円の値がついたものですから立派なものです。この展示会では、ひとまわり小さい花器が25万円で落札されましたが、この作品が残って私が預かったもので、無理に巻き上げた物ではありません。
築地サロンの喫煙ゾーンは唯一、この鬼門側テラスだけですので、なかにはこの陶磁器を灰皿代わりにする不届きな人も時々はいて、作家への冒涜ですから「申し訳ない」と心から詫びています。
では、「陶芸家 美崎光邦」略歴を。
例として、私が眺めた作品の-部を列記します。
粉澱淡彩瓷小鉢 (ポット)
粉澱淡彩瓷小鉢 (ポット)
彩泥瓶(花瓶)
粉澱淡彩瓷扁壷
粉澱淡彩瓷扁壷
淡翠碧釉鉢
淡翠碧釉鉢
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-略歴-
51年 千葉県市川市に生まれる
1974年 中央大学卒業
内原野・九谷・会津本郷・備前で修業
1979年 紀州尾鷲で独立
1999年 八街市に工房を移築
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-受賞暦-
朝日陶芸展入選
中日国際陶芸展入選
日本伝統工芸展入選
日本陶芸展入選
陶芸ビエンナーレ入選
日本工芸会奨励賞受賞
陶芸ビエンナーレ佳作賞受賞
長三賞陶芸展奨励賞受賞
淡交ビエンナーレ茶道美術公募展
特別奨励賞受賞
日本陶芸展最優秀作品賞
秩父宮賜杯受賞
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上記の陶芸家・美崎君は私の末弟の中学時代からの友人で、陶芸家になる遙か以前から陶芸家の風貌をしていましたから、私の助言も当然、「陶芸家になれ!」以外は全くありません。当然ながら、最初の作品の「湯飲み」も進呈頂きましたが、これは残念ながら滲み漏れがあって売り物にはなりませんでした。その湯飲みの埋め合せに届いたもが、このテラスにある名作です。
なお、本人の名誉のために申し添えますと、二度目に頂いた「湯飲み」は、見た目も剛直で雅趣に富み私の手にしっくりと馴染んで10年以上も愛用し、惜しくも宅から転落してひび割れして不慮の最期を遂げましたが、それは見事な作品でした。
と、書き並べましたが、この一文が私の末弟か美崎君の知るところとなれば、このツボは作家の手元に故郷帰りする可能性大とみて、しばし別れを惜しんでテラスでのコーヒータイムを楽しんでいます。
こらもご覧ください。
https://www.kaiundou.biz/team_natsuki/
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