白内障手術記-3


白内障手術記-3

花見 正樹

7月とも思えぬ涼しい日々が続いた一週間、お体に不調はありませんか? 梅雨時は体調を崩しやすいものです。お互いに健康第一ですね。
私は目さえ治れば万全です。
受付で所定の手続きを終え係員から8番の番号札を預かり、おなじ番号のゼッケンに座ったまでが前回でした。
さて改めて受付をみると、事務室の内部で立ち働く白衣の女性たちの会話から察して、どう見ても事務員らしくないのです。受付といえば普通は事務員が椅子に座って質疑応答の末に書類を書いたりするものですが、このSU眼科では少々趣が違うようです。
事務室内で受け付けとして働いているのは看護師や観護助手など医療従事者らしく、要領を得た短い会話で、次々に押し寄せる来院客を巧みに捌いています。しかも一人が一人を受け付けて奧に下がると、次の職員が次ぎの客に対応して次々に作業手順が書類に書き込まれて現場に回されていくから、いくら患者が増えようとも手の空いた者が次々に対応するから受付での混雑は目立たないのです。
そういえば私も、初診の書類記入は「あちらで」と言われて、少し離れた場所にある台の上で書き、目が合った職員に手渡しただけで、受付のカウンター前には1秒ほどしか立ち止まっていません。これはまさに天文3年(1575)の初夏、長篠の戦いで織田信長が武田の騎馬隊に用いた三段備えの戦法そのものです。これだと新手の敵には新手の銃で対応できるから戦線に停滞はないのです。
「うーむ、SU眼科は手ごわい・・・」
病院嫌いの私だけに病院が珍しいだけに実は興味津々、これからどうなるのか? 失明も覚悟の上です。
病院といえば5年ほど前に銀座4丁目交差点近くの馴染の歯科に歯石削除に行って以来久々のことです。その時は新任の研修歯科医が、私の上部右端の歯が少々ぐらついたのを見て、すかさず「これ抜きましょう!」と鬼の首でも取ったように嬉しそうに職業病丸出しの笑顔を隠そうともしません。それ以来歯科医は行かず、その歯も臨終の折は自分で力任せに抜き、うがい消毒で看取りました。その時は歯を食い縛って頑張らず、口を開いて頑張りました。
今回の目の手術の場合は条件がまるで逆です。こちらから探し求めて藁にもすがるような気分での訪院です。
医者嫌いが祟って緑内障での失明寸前と判明、ままよ支罪したら整体業と一念発起して整体師範まで上り詰めてはみたが整体は施術も指導も時間がかかり過ぎて、平均寿命超えでオマケの余生を楽しむにしてはマイナーすぎます。
それに、好きな絵画鑑賞や観劇、旅行や釣りからも縁遠くなるばかり、目の前50センチに絶世の美女がいても霞がかかっておぼろげに見えるだけ、さらにパソコン仕事に支障が出ていましたから、悪質な緑内障持ちの私に「白内障手術OK」のゴーサインを出してくれたSU眼科の院長はまさに「地獄で仏」、拝むような気持で待合室のイスに沈んでいました。開業は9時からと聞いていましたが、定刻より早めの8時50分ごろ名前を呼ばれて待合室を離れて別室へ移動、この時、瞬間的ではありますが、榎本武揚と別れの水盃を交わして出撃し箱館一本木関門で戦死しますが、その時の心境の千分の1ほどの覚悟が試の片隅に浮かんだのを感じました。