花見 正樹
2歳の幼児、まさに奇跡的な生還です。
山口県の周防大島町では、帰省中に行方不明になった2歳の男児・藤本理稀(よしき)ちゃん(2)が行方不明になってから三日目、延べ380人を投入した警察や消防をはじめ地元の人たちが総動員で探しましたが、その行方は全く分からず、2歳児が飲まず食わずで生き延びるのは無理という医師もいて、捜索隊の中にも諦めの空気が出始めていたそうです。
そこに突然現れた大分県日出町のボランティア活動家・尾畠春夫さん(78)が、理稀ちゃんの家族と会って、「必ず見つけ出し
て連れ帰ります」と約束をして、そのまま山に入って谷沿いに捜索を開始し、出かけてからわずか30分ほどで沢の水際の岩場に座っていた理稀ちゃんを発見、声を掛けて確認した上で、持参した布にくるんで背負って帰還しました。それを見た警察側は、理稀ちゃんを渡すように尾畠⒮さんに迫りますが、それを断って無事に理稀ちゃんは母親の手に戻されました。両親、親族、関係者の喜びは当然として、当の理稀ちゃんが長じてこの事実を知った時、救われた感謝を他の人への奉仕で恩返ししてゆく可能性があるだけに、一人の命が救われたお蔭で、人助けが大きな輪になって社会に還元されるかも知れないのです。
尾畠さんは2年前の冬、同じ山口県佐伯市で行方不明になった2歳の女児の捜索にボランティアで参加し、その女児が最後に目撃された地点から約2キロ離れた山中で見失われて約21時間後に無事に発見された経験から、幼児は迷ったら上に登ることを体験的に知っていたからこそ、今回の理稀ちゃん発見につながったと語っています。
それにしても、12年前に魚屋を廃業して以来、ボランティア活動を続け、東日本大震災や熊本地震などの被災地では、ボランティア仲間から「師匠」と呼ばれ、尾畠さんを知らない人はいないほどの活動家だそうです。
それにしても恐るべき78歳、この活力の源泉は「人を援ける歓び」なのか、ただただ頭が下がるばかりです。
勿論、私の周囲の人たちも私自身にも、何らかの形で社会への恩返しとしてボランティア活動をしている人はいます。しかし、生活の全てをボランティア活動のために打ち込む尾畠さんの生き様とは全く別の生き方をした上での余裕のボランティア活動です。
私はつねづね、ボランティア活動には心の余裕が必要と言い続けてきましたが、尾畠さんには、心だけでなく体力と胆力にもかなりの余裕を感じます。
私はいま82歳、ここまで生かして頂いた社会への恩返しはまだまだ足りません。身命を賭しても何かやらねばならない使命感に燃えてはいますが、その成果はまだ微々たるもの、前回も書きましたが、私の行動はまるで亀の歩みのようで我ながら歯がゆいのですが、全てはこれから焦りはありません。
さて、仲間をと私の周囲を見渡すと、尾畠さん世代の78歳前後の男達は、糖尿病、前立腺、喘息などとボランティアどころか息も絶え絶え、女性軍団が元気なだけに哀れとしか見えません。
そんな仲間には尾畠さんの爪の垢を分けて頂き煎じて飲ませたら、少しは元気を取り戻せるかも知れませんが、無理をせず自分一人で我が道を往くのが正道と考えを新たに気持ちを引き締めています。
その尾畠さんは、幼児救助は過去として、もう今は西日本豪雨で大きな被害を受けた広島県呉市に戻って、泥にまみれて体力ボランティアで率先して陣頭指揮・・・頭が下がるばかりです。