年の瀬幻想


 年の瀬幻想
(この1年を顧みて)

     花見 正樹

銀座なび】Today's Ginza〜 銀座四丁目交差点 クリスマスイブ ...  久しぶりに歩いた年の瀬の銀座通りは、その両側を眩(まばゆ)いばかりのイルミネーションの輝きの壁に囲まれていた。その谷間をさまざまな車輛が奔流のように流れている。
 私の過ぎ去りし1年も、この車の流れと同様、瞬く間に何の痕跡もなく視界や記憶から消え去っていて、時が過ぎればすべては無、無きに等しく感じられる。 この2年、自分の生き甲斐でもあった激流・銀座和光クリスマスイルミ|ミキモトクリスマスツリー|夜景|鎌倉ナビ球磨川に身を浸し、清冽な流れを全身で感じつつ、下手な鮎釣りを愉しんだ晩夏のひと時に想いを馳せると、歩道の端に身を乗り出した自分、今にも車道の流れに足を踏み入れようとして、ふと手に竿がないことに気付いて思いとどまり、あること気付いて愕然としました。
 私は、鮎釣りが好きなのではなく、球磨川の流れと、20数年来の家族的雰囲気で世話になった鮎宿と、そこに集う釣友との交遊が好きで通ったのではないか? いま、河野、柏原、大竹山、柴田氏などはどう思っているか?
 お互いの消息は連絡し合えばツーカーなのに、お互いにまだ誘い合うのが怖いのだ。
 いくら球磨川が大鮎のメッカとはいえ、大鮎の棲む流芯や深場にある大石には近寄る術もない。したがって、私が釣れる程度の鮎は、過去につり歩いた全国の有名河川のあちこちに点在する。関東だけでも、かつて自分が組合員として所属した那珂川や鬼怒川、利根川、多摩川、相模川、酒匂川、狩野川と列記すればキリがない。
 だが、心は動かない。
 そんな自分を見透かすように病気療養中の大分の先輩釣友の川原師匠に続いて、球磨川の主とも称され職漁師でもある塚本名人からも暮れの挨拶、と近況報告の電話が入った。
 それによると、今年は、鮎宿と宿主二人の命を奪った球磨川には辛くて近づけず、家のある八代市から高速で球磨川を見るないようにして鹿児島の河川まで、片道1時間20分かけて通ったいう。
 その言やよし! さすがに名人の呼称は伊達ではない。これで自分もスッキリした。
 この年末は喪中の葉書も13枚、家族以外の友人知人が大半で、生前に会っておきたかった友もいる。
 まことに悔いの多い1年ではあったが、嬉しい出来事も秘めている。 
 ここで、来たるべき新年を喜んで迎えんと意を決し、新たな希望が湧き出るのを体中が感じた。
 心を空にして瞑目すれば、周囲の賑わいや華やかな電飾も瞬時に消え、時は静かに音もなく流れ逝く。
 目を開くと見慣れた銀座の風景が心温かく映り、車の流れもスムーズで何もかも絵になっていた。

   くれぐれもお体大切に、

 よいお年をお迎えください。
 
  花見 正樹

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