伊豆の海


伊豆多賀駅1

 最近、JRが頑張っています。
 私が住む埼玉県は海無し県、その北の辺境久喜市栗橋駅の上りの終点は長い間、上野駅でした。「ああ上野駅」の歌は、かつての集団就職少年の終着駅が上野だったから出来たのです。長い間、大宮以北の北関東、東北の人達の上京は上野駅が終点と決まっていたものです。これが、いつの間にか東京駅まで延び、新宿経由の逗子行きが現れてビックリしました。ところが、なんと先日気づいたら熱海、沼津駅まで栗橋から乗れる電車が1日に何本か運行し始めたのです。
 以前、友人に熱海の別荘(マンションの1室)を仕事場に貸してくれると聞いたことがあります。 それを思い出したので、何気なく打診してみると「いつでもいいよ。見に行く?」です。で、見に行って参りました。
 てっきり熱海の温泉街だと思っていたら確かに住所は熱海市内ですが駅は伊東線で二つ目の伊豆多賀でした。
 それが今どき珍しい無人駅で、他の乗降客の影も形もないのです。しかも、その駅に停まるJR伊東線が我が家のある栗橋駅から乗り換えなしの一本で一日3本も出るようになったのです。これならグリーン車でも新幹線より格安ですし、いつでも気軽に来られます。
 マンションは駅からの坂を下った海辺にあり地名は下多賀、2LDKと狭いのですが執筆仕事には充分です。駐車場が一階で、友人の一室は5階建ての2階で、相模湾が一望に見える見晴らしのいい和室があります。
 左は堤防の向こうが長浜海水浴場で熱海の温泉街を望み、中央は大海原、右はやはり海水浴場があって網代漁港と町が見えます。

 和室からは海はながめられても殆ど道に面していますので、車の騒音が気になれば奥の洋室に逃げ込めばいいことも分かりました。
 今から30年以上もの昔、私はバスガイドの教科書づくりを手伝ったことがあります。
 バスガイドの経験者なら誰でも所属会社からかドライブインで「トラベル出版のガイド教本」を手にしたことがあるはずです。
 この出版会社の社長が友人で、バスガイドが喜ぶ「面白い教本を!」と注文を受けたのです。
 そこで書いたのが西伊豆を舞台の「風かおる堂ヶ島」東伊豆の「恋ゆらぎ城ケ崎」です。
 次作は箱根でしたが、親会社(印刷)の倒産で書籍事業も断絶、印税目当ての先行投資、自前の温泉三昧取材旅行も経費倒れです。
 作品は、全東京新聞というローカル新聞に連載してムダにはなりませんでしたが未だに残念でなりません。この続編を伊豆の海を眺めながら書くとしても今更バスガイド教本でもありません。では、今執筆中のライフワークの戊辰戦争は? それは無理、雰囲気が違い過ぎます。
     
 ぶらぶら近所を歩いてみるとバス停まで1分、スーパーまで2分、食事処まで2分、堤防まで3分。あれ? 白い割烹着のままのおばさん釣師がなにか釣り上げました。急いで見に行ってみると、結構なメバル、バケツの中でも何尾か泳いでいます。聞いてみると「夕飯のおかずだよ」、これで「女の人は釣りが上手」が納得できます。さらに、マンションから3分ほどで人口の掘割があり小魚がすいすいと楽しげに泳いでいます。と、なると近くの川ではいつでも淡水魚のザコが釣れるはずです。
 そこでふと気づきます。ここは仕事場には不向きだ! と・・・

 なお、「風かおる堂ヶ島」は古い原稿を打ち起こして、HP[花見正樹作品集」で連載中です・
  本文の中に出てくる景色は、宜しければ本HPの「写真館・村長の日々のつぶやき」でどうぞ。