トマト 松本善一(やぶれ傘) トマト 松本 善一 桑の実やとうに養蚕捨てし村 あぢさいに墨田の花火てふ名札 開け放つ座敷干梅匂いくる もぎたてのトマトに残る陽のぬくみ 地下鉄に赤い帯の娘花火の夜 すててこの親爺が路地の水遣りに 庭のあぢさい厨にもかわにも Tweet
炎天の畑 廣瀬済(やぶれ傘同人) 炎天の畑 廣瀬 済 柄の朽ちしシャベル転がる茂りかな 友と酒まずはいつもの冷や奴 裏通り子供御輿の声高し 紫陽花の赤白青に濃紫 そら豆の莢のにこ毛に埋まりおり 炎天の畑にシャベル立て置かれ クレーンの首振る脇に百日草 Tweet
水仙花 上林富子(やぶれ傘同人) 水仙花 上林富子 午後からを招かれており菊日和 芭蕉像青空に立つ暮れの秋 初霜や畑にスコップ立てしまま ペン立てに渓で広いし朴落葉 掃き癖の箒傾く冬の庭 小流れに赤かぶ洗う母の里 母の忌や床の間に置く水仙花 Tweet
休耕田 山岸甲一(やぶれ傘同人) 休耕田 山岸甲一 庭先の灯に鶏頭の現はるる 秋の海見下ろす崖の出で湯かな 母のみの見ゆる楽土や草の花 草の群れ休耕田のそこここに 御宿(おんじゅく)の月の砂漠に踊りけり Tweet
水中花 三宅禮子(やぶれ傘同人) 水中花 三宅 禮子 江戸も見し欅(けやき)大樹の蔦青し 梅雨空に鴉(からす)啼くとき羽を揚ぐ のそのそと蟇(がま)の横切る道に待つ 盥(たらい)てふ言葉なつかし日の盛り 夕凪の白き帆かたまりて 水中花水をくわえて離さざる Tweet
月見草 松本正生(やぶれ傘同人) 月見草 松本 正生 青嵐山路に海の見え隠れ 夏暖簾町屋の朝の水の音 路地が好き風鈴の音にいざなわれ 花茗荷植えし覚えのなきところ 砂の家を波さらいゆく夜の秋 流れゆくテールランプや秋暑し 膝つけば波より髙し月見草 Tweet
十三夜 奥田温子(やぶれ傘同人) 十三夜 奥田 温子 山脈を覆う雲なし後の月 ススキ越しの富士を間近に野天の湯 小楢の実ひとつぶ拾う落葉掃き あの窓に映りし月も十三夜 キジ鳩の落葉散らして飛びにけり デンバーの果てなき荒れ野枯れすすき Tweet
三輪車 濱野新(やぶれ傘同人) 三輪車 濱野 新 湯上りの背にタオルかけ冷や奴 医者に行く元気残して暑に耐える 日盛りや羽休めたる大風車 炎天に乗り捨てられし三輪車 坂道の天辺にある夏の雲 盆休み竹馬の友と長電話 父の背をまぶたに泛べ墓洗う Tweet
釣船草 大野美登里(やぶれ傘同人) 釣船草 大野美登里 おくんちの囃子詞を口ずさむ 古酒を酌む深夜放送聞きながら 海ぞひを走る列車や夜の稲架 食卓に一輪挿しと煮染芋 民宿の軒にランプや藤袴 山あひの村に灯のつく新走り 栗煮るや古びし杉の落し蓋 芋嵐水運び行く猫車 引越しの茶碗をつつむ夜長かな ひとところ濁る流れや釣船草 Tweet
寒ミカン 奥墨ウメ子(やぶれ傘同人) 寒ミカン 奥墨ウメ子 老人のしばし若やぐ運動会 朝顔の種の採り入れまだすまず でっかすぎる藷を掘りたり美里町 木枯らしに吹かれつつ待つ交差点 枝陰に色つくミカン見つけたり 咳が出て電話の先に悟られる 襟巻を巻いて道端掃き掃除 Tweet