茄子の馬
安藤久美子
朝顔に苗に支柱の大胆な
やぶ蚊つれ庭の昼より戻りけり
川風の闇へ花火の続けざま
向日葵の迷路に人の沈みけり
茄子の馬父のことはた母のこと
渡し場は蚊帳吊草のその先に
向日葵の花に種ある重さかな
風ふふむゑのころ草のひと処
新涼を滝野川より王子まで
隧道を抜け来る風や葛の花
大西日
きくち きみえ
コツと音せみの転がりおる大地
行き行きて行方分からぬ蟻の列
山の水受けてバケツの缶ビール
アイロンの余熱ありけり夜の秋
子の丈の中ほどにある浴衣帯
居眠りの胸の上にある団扇かな
大西日滑り台にも砂場にも
夏をはる
根橋 宏次
金魚屋の槽(ふね)に売らるる布袋草
鯉の頭を打って塩辛とんぼかな
釣堀のビールケースに座りけり
泥鰌鍋「いの一番」の下足札
草刈るや水辺に乾ぶ縄束子
藪茗荷鴨の下を鯉くぐり
鯉あげし濁りをさまる水の秋
岸壁に並ぶビットや夏をはる
威し銃
廣瀬 雅男
蜘蛛の囲を払いて瀬戸を開けにけり
雷や地の蟻急ぐこともなく
風の来てつと噴水の金魚かな
土用の日うの字大きな幟旗(のぼりばた)
朝顔に明日咲く蕾ありにけり
昨夜の雨上がりし二百十日かな
バスを待つ丸太のベンチ茸生う
みちぼくの山彦となる威し銃
ウイーン
丑久保 勲
信号は春の入り日の中で青
花屑の渦巻いて径よぎりけり
消防の登はん訓練初つばめ
陽炎の一の鳥居の奥にかな
夕桜軸先を回す屋形船
楽屋口へ消えるチェリスト夕つばめ
ピアノ弾きに投げ銭をする日永かな
杉枝を吊るすホイリゲつばくらめ