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小指の先から  高橋 禮子

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  小指の先から

                           高橋 禮子

 生きているけれど足りないものがある吾子を持たざる私のうつつ

 赤ちゃんは小指の先から生まれると少女のころに思っていたから

 いや違う目の前のことに全力をかけてしまって先見えなくて

 振り返るわれの過去(すぎゆき)ひとつづつ見つめてみればいいことばかり

 春くるもひとり住まいの私は歌集をこどもと言うしかなくて

 後ろ向くときも私にあるんですそんな日届く表紙のカバー

 私がわたしに贈る誕生祝「二月のひまわり」生きよのエール


からすうり   高橋 禮子

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 からすうり

          高橋 禮子

 原点を求めゆくよう烏瓜竹にすがりて朱のいろ灯す

 右の手に1つ左の手にひとつ握ってうれしからすうりの実

 新しき年につなげん回り道して見つけたるからすうりの実

 ざわざわとわれに寄りくる雑用にかけてしまおう催眠術を

 巻きしげとしばし語らん人生の敵は自分であることなどを

 手の届く位置にありたる烏瓜つやあり張りあり信念のあり

 届かざるものを得ようとするなかれ缶ビールにて一人の乾杯

 二つの目入りてきょろきょろ達磨さん私は何をしたらいいのか

  歌人・高橋禮子の世界
(高橋禮子作品集)

 著者紹介
1943年東京都生れ。65年から97年まで教職につく。
1975年「まひる野会」入会、窪田章一郎に師事。
日本文藝家協会会員、日本ペンクラブ会員、現代歌人協会会員。
日本歌人クラブ会員、茨城県歌人協会理事、茨城歌人会編集委員。
歌集『二月のひまわり』など著作は多数あり。
歌集「サファイアロード」に寄せた日本詩歌句協会理事・黒田青磁師の書評をお借りします。
「口語短歌の先駆的歌人の第13歌集であるが、著者としては「ライトピラー」「ブルーコラージュ」に続く第3弾と帯に記されているように、話し言葉を基準とした一連の作品の区切りと考えているのかも知れない。透明な詩情の漂う作品に、ある理想への到達を感じないではない。
◎「どちらでもよいのだけれど 迷わずに買ってしまったキズあるりんんご」
◎「壁際の席に座したり今日だけは 背中を誰にも見せたくはなし」
前作の傷ある林檎は、己自身でもあるだろう。後作も傷ついた無防備な己れを詠んで人生の深淵を摘出していると思う。次の2首は明るい」
◎「哀しみが無いわけじゃない樹になって 葉っぱになって光のシャワー」
◎「五十七まで生きてきたこと今日よりの 腐葉土として黄の福寿草」
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作品紹介(数多くの作品の中から選ばせて頂きました)
1、歌集・サファイアロード ・文芸社
2011年02月発行 定価: 1,470円 (本体 1,400円)
生きることは、つらいこと? 楽しいこと?
生きることの楽しさを改めて実感し、目前に伸びるきらめく道を歌とともに歩んでいく。
「ライトピラー」「ブルーコラージュ」に続く、サードステージを彩る言葉のギャラリー。
◎「生きることって楽しいことです ゆるゆると 歩いていかんサファイアロード」

2、歌集・シェイクスピアのロマン・角川書店
2010年09月発行 定価:2,699 (税込)
前へ、前へ、次の歌集へ。これは、もう、生きている限りの。私のゴールだろう。
ライフワークは「短歌」と信じて、私はこれからも前を見て歩いていく。
人生の主役は<私>――街角で、ゴルフを見て、うたげの席で、ときには一人になって――
前歌集『二月のひまわり』に続き、人生への賛歌を高らかに詠いあげる第十三歌集。
3、歌集・ブルーコラージュ・文芸社
2010年07月発行 定価: 1,365円 (本体 1,300円)
心とことばのハーモニーに魅了され、短歌の道をひた走ることにした・・・
その覚悟が伝わる渾身の歌ものがたり。
◎「もてるものすべてを生かそうあのそらに 我を描かんブルーコラージュ」
◎「向き合いて巨峰食べおり爪の先 染めて紫 夏のうっぷん」

 4、歌集・ライトピラー・文芸社
2009年11月発行 定価:1,365円 (本体 1,300円)
私のもとにあるたった一冊の『ライトピラー』。早速読んでみる。
まさに、私のタイムトラベル。よみがえる日々のあれこれ。
見えてくるもの、そして、見えてこないもの、そのコラボレーションこそ、
人生のあやと感じた私は、昔も今も変わっていない。
◎「百年を生きるとしても数えれば 三万六千五百日なり」

 5、歌集・二月のひまわり 角川書店
2009年03月発行  定価:2,700 (税込)
人生は長く、そして生きることは素敵だ。
夏が過ぎ、秋を見送り、二月に咲くひまわりもある。

 6、歌集・ガラスのクッキー 角川書店
2007年07月発行  定価:2,699 (税込)
生きることは、時には涙ぐましいことでもある。
そして人生には、ある瞬間にみえてくるものがある。
◎「透き通るものが好きだと言ったって 食べられないよガラスのクッキー」
◎「散らずして花芽を守るブルーベリー 深き緋のいろ 睦月の葉っぱ」

 7、歌集・風はなにいろ 文芸社
2004年07月発行 定価:1,470円 (本体 1,400円)
「記憶というもののあやうさを思うとき、やっぱり、
書きとめておくことの確かさを思います。さりげなく・・・

 8、歌集・リオの海鳴り 本阿弥書店
2005年10月発行  定価:3,150 (税込)

  9、歌集・ポパイに勝とう ながらみ書房
2002年2月発行 価格:2,835 (税込)

 10、歌集・湖畔のイソップ  ながらみ書房
2001年01月発行 定価:2,625 (税込)

 11、歌集・風オレンジ色  ながらみ書房
2000年05月発行 定価:2,625 (税込)

12、エッセイ集・風船   ながらみ書房
1999年11月発行 定価:2,625 (税込)

 13、歌集・オフサイド   ながらみ書房
1999年01月発行 定価:2,625 (税込)

14、歌集・トリプルルッツ  ながらみ書房
1998年10月発行 定価:2,625 (税込)

15、歌集・みっつのナイン  ながらみ書房
1997年09月発行 定価:2,625 (税込)

16、歌集・ライトピラ-  ながらみ書房
1996年08月発行 定価:2,625 (税込)

17、歌集・マリンスノ-  ながらみ書房
1994年07月発行 定価:2,548 (税込)

他に、歌集・クリスタルの雫、アンソロジーなど多数あり。


六十の門

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六十の門

高橋 禮子

 こもれびを肩にふわりと止まらせて歩む私も森のはだか木

 てのひらに今日の天気を転ばせる菜の花畑のローヤルゼリー

 ああそうだ青海チベット鉄道に乗りて五〇〇〇の高地をゆかん

 東南の角に建てたる白き家ひかりと風をつねに離さぬ

 せかせかと取りて来たるが年ならんこれより先はあわてず焦らず

 五十代には門あらざりき心意気なくとも自然に走ってこられた

 パープルの風が辺りを震わせて円かに朱し六十の門

 細々とまた太ぶとと伸びてゆく草よいずれも気負いを見せず


風オレンジ色

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 風オレンジ色

高橋 禮子

  一日に君の書きたるこの便り二日の消印届くは三日

 ごみの日を人も鳥も待つという昔むかしはなかったことなり

 静けさの中にふたつのくしゃみあり雑誌読みいる二時の図書館

 わたしにはおとぎの世界二億もの相続税を払った話

 そのむかしセルビア王国発祥の地とされるコソボどうなる

 あるはずの車が無いというだけで留守と判断する友のあり

 身の回り片付けるべし要らざる捨つるべきなりごみの哲学
280716


なにを暗示す

original[1]

    なにを暗示す
高橋 禮子

満塁だ八回裏だ私の打席どうする打つしかあるまい

 いややややマナガツオなど釣り上げて抱えいる夢なにを暗示す

 台風をいといはしない全身で抗うごとくマーチ走らす

 エイジレス志向に変えん膝の痛みさすりさすりて知らんふりして

 顔よりもずっと艶めく膝小僧いまだに大人の分別見せざり

 ゆずいろのわれのバスタブ時折はお月さまさえ覗いてくれる

 月よりの使者さえあるかと思うほど泉のごとく繁吹くバスタブ


春のビール  高橋 禮子

ビール
 春のビール

 ま昼まのビールもたまにはいいもんだ目ざすバラ色見当たらずとも

 この次は何が出てくる刊行を促すようなあなたのエール

 咲かんとすひまわり坊やと同居したあの日があるから私がある

 リビングの二月に咲いたひまわりは即君なのだカモシレナイネ

 私の惑いを払う「二月のひまわり」春のビ-ルでさあ乾杯だ

 降ることをためらうような午後の雨なにやら決断迫られている
 
 さあ夜のポストに沈めてもらおうか走り走ってハガキ一枚


岩国にて 村上祥三(やぶれ傘同人) 

錦帯橋
 岩国にて
       村上 祥三

赤茶けし「善の研究」曝書せり

ネット碁の敗戦悔み飲むサイダー

駆け抜けるバイクの音や百日紅

もろきゅうはこの大きさと胡瓜もぐ

鵜飼ひ見る夜の錦帯橋の上

素手で拭く眼鏡の汚れ昼寝覚め

丸ポストの残せし町や夏暑し

280626


水中花 三宅禮子(やぶれ傘同人)

水中花  
水中花
         三宅 禮子   

 江戸も見し欅大木こけ青し

 梅雨空に鴉啼くとき羽を揚ぐ

 のそのそと蝦蟇の横切る道に待つ

 盥てふ言葉懐かし日の盛り

 夕凪の沖に白帆のかたまりて

 水中花水を咥えて離さざる

 夕焼の向こうに白き月残る    


風鈴 松本正生(やぶれ傘同人)

風鈴
風鈴

         松本 正生

 青嵐山路に海の見え隠れ

 暖簾町屋の朝の水の音

 路地が好き風鈴の音に誘われ

 花茗荷植えし覚えのなきところ

 砂の家を波さらひゆく夜の秋

 流れゆくテールランプや秋暑し

 膝つけば波より髙し月見草