冬深む
藤井 美晴
草枯るる九重岐(くじゅうわかれ)を風が過ぐ
枯葉踏む音や瀬音にまぎれつつ
唐戸から壇ノ浦まで冬夕焼
電線にからまれている冬入日
漣(さざなみ)や彼岸の冬灯彼岸まで
枕辺の「静かなるドン」冬深む
海に向く門前うるめ鰯干す
昨夜(さや)よりの風ゆるみけり初明かり
山門に磯の香りのあり実千両(みせんりょう)
晴れ渡る相模の海や寒椿
271129
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包丁研ぎ
松村 光徳
落ち葉炊く煙りを髙く八ヶ岳
秋の雲秋の蓼科這いゆけり
残り柿ひとつひとつの朝日かな
散歩道木の葉相寄るところあり
背を風に包丁戸研ぎの師走かな
救急のサイレン遠く冬木立
煙突にクレーン登る師走かな
闇降りてしろわびすけの息ぢけり
夜目しるく山茶花の紅地を飾る
八方に冬芽かかぐる桜かな