マリちゃん雲に乗る
宗像 善樹
(5)マリちゃんの苦労
私を躾けた実績に自信を持ったパパが、無理難題を吹きかけてきたことがあります。
わたしが、お酒を飲んでいるパパの膝の上で、「ワン、ワン」と鳴いたときのことです。
パパが、赤い顔をして言いました。
「マリちゃん、ワン、ワンと鳴かずに、ワン、ツウと鳴けないかな。ワン、ツウと鳴くと、タレント犬として有名になって、テレビに出られるよ。マリちゃんは優秀だから、できると思うよ。ワン、ツウ、スリーと鳴けると、もっと完璧なのだけど。ギネスブックものだよ」
パパは、わたしや華ちゃんに、ときどき無理難題を言うことがあります。パパがやさしい声を出すときは、大体そういうときです。そういうとき、わたしは、パパへの対応にとても苦労します。
台所で洗いものをしていたママが、顔を上げ、振り返って、パパへ厳しく言いました。
「パパ、何を馬鹿なことを云っているの。そんなことを云うと、マリちゃんがノイローゼになってしまうわよ」
わたしは、華ちゃんが日ごろから、「無理なことは無理。出来ないことは、出来ない」と、断固とした態度でパパに接している訳がよく分かりました。