マリちゃん雲に乗る
宗像 善樹
(1)旅立ちー3
マリちゃんの周りには、東北地方から天に昇って来たたくさんの動物たちがひっそりと身を寄せ合って、雲の船に乗る順番を一列に並んで待っています。
東北地方から来た動物たちは、大震災でがれきの下敷きになったり、大津波にさらわれたりして死んでしまった犬や猫たちです。馬や牛、鶏、地上に出て羽化できなかった蝉の幼虫などもいます。
天の川の向こう岸から、震災で亡くなった飼い主だったおじいさんやおばあさん、お父さん、お母さん、子どもたちの声が聞こえてきます。
「おどっつぁとおかーは、こっちにいるよ」
「じいちゃんもばあちゃんも、こっちにいるよ」
「さっさど、こっちにおいで。美味しい食べ物がいっぱいあるよ。みんな待っているよ」
マリちゃんは、織り姫さん、彦星さん、そして、たくさんの星たちと力を合わせて、東北の仲間たちを一生懸命に雲の船に乗せる活動をしてきました。
でも、マリちゃんは、天の川の河原に来たときから今日まで一年半以上も働きどおしで、クタクタに疲れています。
相変わらず、お友だちがマリちゃんの健康を心配して、大きな声でいっせいに呼んでくれます。
「マリちゃん、早くこっちへおいでよ。ワンワン、ニャア、ニャア」
マリちゃんも、内心はそう思っています。
「わたしも早く行って、みんなとゆっくり遊びたい」
天の川の向こうから、マリちゃんをいじめた野良ネコ親分の茶寅(ちゃとら)ボスの太いダミ声が聞こえてきました。
「マリちゃん。あのときは、マリちゃんをいじめてごめんね。早くこっちへ来て、みんなで一緒に遊ぼうよ」
マリちゃんは、嬉しくなりました。
「茶寅ボスは、改心して天国へ行けたのだ」
ほんとうに良かったと、マリちゃんは思いました。
真っ白な雲海の上が茜色に染まりだしました。いよいよお天道さまが顔を出されます。
まわりの雲も真っ赤に染まり、天上が朝焼けになりました。マリちゃんの白い毛も、赤く染まりました。
しだいに、茜色が薄まり、天空が鮮やかな青色に移ろいました。雲海が、真っ白なうねりに戻りました。
河原に顔を出されたお天道さまがマリちゃんに、やさしく声をかけてくださいました。
「マリちゃん、おはよう。まだ、ここでみんなを助けてあげているのだね。マリちゃんは心臓が弱いから、早くしないと、天の川を渡れなくなってしまうね。それに、仲間の動物たちがだんだん少なくなると、マリちゃんも、寂しい思いをするだろうに。そろそろマリちゃんも雲の船に乗って、天の川の向こう岸の天国へ行きなさい」
マリちゃんは、かるく首を振って答えました。
「いえ、大丈夫です。わたしは、みんなの後から天国へいきます。浦和にいたとき、パパとママが、『最後まで頑張る』ということを、わたしに教えてくれました」
お天道さまが、微笑んで言いました。
「その通りだね。パパとママは、マリちゃんにいろいろ教えてくれたね。そして、たくさん、たくさん可愛がってくれたね。パパとママの教えは大切に守らなければいけないね」
マリちゃんは、お礼を言いました。
「お天道さま、ありがとうございます。わたしは、ひとりでも大丈夫です。寂しくありません。織姫さんと彦星さん、それに、たくさんのお星さまがわたしを助けてくれます」
織姫と彦星が、やさしくうなずきました。
「癒しのマリちゃん、あなたなら頑張れるわ」
周りにいる星たちも、声をそろえてマリちゃんに言いました。
「大丈夫よ、マリちゃん。私たちもたくさんいるのだから。寂しい思いはさせないわ」
お天道さまは、愛おしそうにマリちゃんを抱きしめ、やさしく雲の上に座らせてくださいました。そして、雲の間から顔を出されました。地上に朝が訪れたのです。