月別アーカイブ: 2020年7月

山手線の近況報告   宗像信子

 

山手線の近況報告

宗像 信子
(開運道芸術部門顧問、咸臨丸子孫の会幹事)

今年になって山手線で二つの大きなことがありました。
1つ目は3月14日に「高輪ゲートウェイ」駅が西日暮里以来の新駅ができて、山手線と京浜東北線の2線だけですが停車します。
早速品川に行った帰りに途中下車をしてみました。
駅の中は写真のように現代的でとてもスッキリしていますが、大きな空間に圧倒されるようでした。お店もあり使い勝手はいい駅かもしれません。
駅の外には出なかったので、駅舎自体は見ませんでしたが、報道によると結構和風のようですね。
今度は改札から出てゆっくり見学しようと思っております。

次に原宿駅です。
レトロな駅舎でとても好きな駅でした。
この7月に、今までの駅舎に並んで近代的駅ビルが出来上がっていました。
今までのレトロ駅舎は壊してしまうのでしょうね。
何だか寂しいです。
原宿の駅付近も大きな歩道橋が撤去され、歩行者にはとてもやさしい交差点になりました。
また原宿駅前にはGAPの大きな店舗がありましたが、閉店して何のお店になるのかと思っていたら、化粧品のお店がたくさん入っていました。
多分海外からの旅行者向けに変えたのだと思いますが、このコロナ騒ぎでお客様は少ないみたいでした。

今は仕事で都内を歩いてみても人通りはやはり少ないし、自分でも余計なことはしないで目的だけを済ませて帰宅するようにしている今日この頃です。


マリちゃん雲に乗る (9)終わりに

 マリちゃん雲に乗る

   宗像 善樹

(9)終わりに 

 話を聞き終えた東北の動物たちは、それぞれ、笑いに満ちあふれていた家族との生活を思い出してしんみりしてしまいました。一人ひとりが、しくしく泣きだしました。
哀しいのです。寂しいのです。そして、悔しいのです。理不尽にも、家族と動物たちの平和な日常生活が奪われてしまったからです。
動物たちみんなが、心から願いました。
『早く、天の川の向こう岸にある天国へ行って、懐かしい家族と再会したい』
 マリちゃんは、いろいろな話をたくさんしたので、喉が渇きました。天の川の清らかな水をピチャ、ピチャと音をたてて飲みました。
 天上に夜がやってきました。マリちゃんは横になり、パパやママ、利絵ちゃん、華ちゃんの夢を見ようと、両足を伸ばして横になり、ゆっくりと目をつむり、クウクウと寝息をたて始めました。
 星たちが、眠り込んだマリちゃんに雲の毛布を掛けながら、やさしくお礼を言いました。
「マリちゃん、ありがとう。浦和での生活は楽しかったのね。この河原で、いつまでもひとりのままでは、マリちゃんがかわいそう」
マリちゃんがぐっすり寝入った後に、一日のお勤めを終えられたお天道さまが河原に戻ってこられました。
 夜空に顔を出そうとする星たちが、お天道さまにお願いをしました。
「お天道さま。マリちゃんがこの河原にきて、もう一年半以上が経ちました。マリちゃんは自分を犠牲にして、弱音を云わずに、東北地方の仲間を助けてきました。すでに、マリちゃんは体力の限界を超えています。このままでは、マリちゃんが余りにもかわいそうです。マリちゃんを、天の川の虹の彼方にある天国まで連れていってあげてください。これからは、マリちゃんにも幸せになって欲しいのです」
 織姫と彦星も、声を合わせて言いました。
「そのうえ、マリちゃんは、私たちにも気を遣って、星たちを癒してくれました」
 お天道さまは、疲れ果ててぐっすり寝入っているマリちゃんをじっと見つめられました。
そして、星たちに答えられました。
「そうしよう。マリちゃんだけでなく、この河原にいる東北の動物たちもみんな一緒に天国へ連れていってあげよう」
 それを聞いた星たちは、胸がいっぱいになりました。
「お天道さまは、すべてを平等に為されるのだ」
 そして、お天道さまがつぶやかれました。
「マリちゃんには、まだ会ったことのないおばあさんと愛犬のべスにも逢わせてあげよう」
 織姫と彦星は、声をそろえてお礼を言いました。
「お天道さま、ありがとうございます。これで、マリちゃんもほかの仲間たちも寂しい思いから開放されて、幸せになれます」
 お天道さまが、大きくうなずかれました。そして、ゆっくりと立ち上がり、大きな、大きな両手にマリちゃんや気の毒な動物たちを大切に包み込み、「では、行ってくる」と言い残して、いぶし銀の雲海の中へ静かに消えてゆかれました。
 星たちが声を合わせて、マリちゃんを見送りました。
「マリちゃん、ありがとう、そして、さようなら。天国へ行ったら、みんなと一緒に幸せに暮らしてね」
 織姫と彦星が、涙をポロポロ流しながら叫びました。
「マリちゃん、ありがとう。本当にありがとう。そして、いつまでも、いつまでも、さようなら。さようなら」
 雲の上に、夜の帳(とばり)が下りてきました。
 澄み渡った夜空から、星たちが明るい光をいっせいにキラキラと
放ちだしました。それは、地上にいるパパとママ、利絵ちゃん、華
ちゃんに、マリちゃんが無事に天国へ行けたことを知らせる合図の
光でした。
 そして、それは、避難所で苦難に耐えて生活している東北地方の
人たちに向かって、人々が飼っていたペットや牛、馬、そして諸々
の動物たちがみんなそろって天国へ行ったことを知らせる合図の光
でもありました。

今夜も、パパとママは、いつもマリちゃんと一緒に遊んだベランダに出て、美しい夜空の星を見上げています。
パパが、一番明るく光る『マリちゃん星』へ向かって、呼びかけました。
「おーい、マリちゃーん。元気かーい」
ママが、隣で、やさしい声で叫びました。
「マリちゃーん」
 パパの涙とママの涙で、明るく輝く『マリちゃん星』が虹になって、かわいいしっぽをくるくる振っているように、七色に滲んで光りました。

   おしまい


マリちゃん雲に乗る (8)利絵ちゃんと華ちゃんのその後

マリちゃん雲に乗る

   宗像 善樹

(8)利絵ちゃんと華ちゃんのその後

 マリちゃんが浦和の家に来たとき大学生と中学生だった利絵ちゃんと華ちゃんも、すでに三十歳を過ぎ、それぞれ浦和の家から独立して一人住まいをしています。
二人ともまだ独身ですが、利絵ちゃんは東京港区のワンルームマンションに住み、会社に勤めて活躍しています。営業の仕事で、英語がペラペラの利絵ちゃんは、外国へ出張したり、海外からのお客様を国内のあちこちへ案内したりしています。
大活躍の、大忙しの毎日です。

高校生のときに整体師になることを志望した華ちゃんは、整体の専門学校で実技と学科を勉強して、夢を実現させました。さいたま市内の整体院に勤めて夜遅くまで頑張って仕事をしています。
わたしは、「華ちゃんも、やる気になれば、すごいじゃん」と思いました。
そして、仕事が終わる時間がとても遅いので、仕事場の近くにワンルームマンションを借りて、そこへ移り住みました。浦和の家から引っ越すとき、華ちゃんは、ママのお友だちの岩本美和子さんが描いてくれたマリちゃんの油絵2枚のうちの1枚をママから貰って、大切に持っていきました。
わたしの絵が、留守中の華ちゃんの部屋をしっかり守っています。

こうして、浦和の家は、パパとママの二人だけになってしまいました。わたしは、空の上から浦和のマンションを見下ろすたびに、家族五人そろって生活をしていたあの頃を、いつも懐かしく思い出します。
 マリちゃんの話が終わりました。


(7)マリちゃん、御宿のマンションへ行く

マリちゃん雲に乗る

   宗像 善樹

(7)マリちゃん、御宿のマンションへ行く

 パパが毎朝思いつめたように新聞の不動産広告欄をながめています。郵送されてくる不動産屋さんからのダイレクトメールも必ず封を切って見ていました。今までは封を切らずにそのままごみ箱に捨てていたのに。
ママが、「パパが思いつめると大変なことになる」と、はらはら
しながらパパの様子を見つめていました。
 パパは、私を連れて外泊できるリゾートマンションを探していたのです。
ついに、パパが行動に出ました。東京のマンション販売会社に電話して、千葉県の海の近くにあるマンションを見に行きたいと、内見を申し込みました。御宿という名の海岸です。
「見学するだけなら」ということでママも気晴らしで行くことに同意しました。
いつもパパは、「見るだけだから」と言ってママをデパートに連
れだし、結局目当てのものを買ってしまうのですが、今回は高額のマンションなので、「よもや、そういうことはしないだろう」と、ママは考えたようでした。
海水浴シーズンが終わった八月末、ママの運転で、パパとわたしの三人で御宿へ行きました。御宿海岸は、砂が白く、海は鮮やかなコバルト・ブルーでした。
パパは、砂のきれいな、コバルト・ブルーの海が大好きで、そういう海辺に寝ころがって、ボーとした時間を過ごすことが、最高の贅沢だと考えている人でした。
「潮風のなかで、お金では買えない至福のときを過ごすのだから、人生、最高に贅沢なのだ」ということです。
特に、パパは、ハワイのワイキキビーチが一番のお気に入りで、わたしが宗像の家にくる前は、夏休みや冬休みを利用してもう何回も家族旅行で出掛けています。ハワイの海はパパのイメージにぴったりで、「湿度がまったくなく、カラッとしていて、汗をかかないでいられる」というのが、汗かきパパのハワイ大好きの最大の理由だと、ママが教えてくれました。
御宿の海岸を散歩しながら、パパが、「年間を通してサーフィンをする若い人がいる。これもハワイのような雰囲気だ」と、呟いていました。
要するに、パパは、湿度の点を除いて、青い海、白い砂、海岸の雰囲気などなにもかもがすっかり気に入ってしまったようです。
ママもピチピチのOL時代に御宿海岸に海水浴に来たことがあったようです。ママにとっても、思い出のあるなつかしい海辺のようでした。
御宿海岸には、有名な童謡「月の砂漠」のイメージとなった白い砂浜があり、浜辺にはラクダに乗った王子さまと王女さまの銅像がゆったりとした雰囲気で立っていました。
二人とも、マンションを見学する前からすでに御宿海岸のとりこになっていました。
 海岸から歩いて3分の所に目的のリゾートマンションがありました。入口の内線電話でマンション会社の営業担当者を呼び出し、部屋の案内を頼みました。販売会社は、本社は東京にあり、土曜日、日曜日は担当者が御宿に泊り込みで、部屋を見学に来る人を案内しているとのことでした。
その担当者の人の説明は要領がよく、人柄も誠実そうなのでパパもママも信頼したようでした。パパとママは、いっそう御宿に好感を持ったようでした。
部屋を案内してもらう前に、パパが、「ペットも一緒に住めるのですね」と念を押しました。担当者は即座に、「ええ、大丈夫ですよ。管理規約にはっきり書いてあります。既にお住まいの方で、部屋の中でワンちゃんと一緒に生活されている人もいらっしゃいますよ」と答え、続けて「ここはリゾートマンションですから、ペットを一緒に連れてこられなかったら、購入される意味がありません」と明確に言い切りました。
この一言で、『マリちゃんと一緒にお泊まりするために、マンションを購入する』というパパの大義名分が出来上がりました。あとはどの部屋に決めるかの問題となりました。  
ママは、こういう場面では、パパの決断に反対するようなタイプの女性ではありませ
ん。むしろ内心では、パパがマリちゃんのために下した大きな決断に満足していたのです。わたしはいつも、こういうときのママの腹のすわり方は本当に凄いと感心しています。
ママの気持ちも購入に傾いたのだから、話しは早いものでした。担当者が丁寧に見晴らしの良い部屋を三室案内してくれました。わたしは、なんの気兼ねもなく部屋の中を歩き回り、くんくん嗅いで自由な雰囲気を感じ取りました。パパとママはそのうちの二部屋を候補に決めて、一週間くらいの検討期間をもらい、マンションを後にしました。
浦和に帰る車の中でパパが、「なんとかなるさ」と呟きました。「なんとかなるさ」と「さよならだけが人生だ」がパパの口癖です。
ママは、パパと御宿のマンションへ運び込む家財道具の相談をしながら、上機嫌で車を運転しました。
 家に帰ってから、ママはさっそく利絵ちゃんに電話して、マンション購入の一件を話しました。利絵ちゃんは、「マリちゃんのためによかった」と賛成しました。華ちゃんが、「マリちゃん、海で一緒に泳ごうね。浮輪をかしてあげるからね」と言ってくれました。
その夜、わたしは、御宿の海岸をママや利絵ちゃん、華ちゃんと一緒に走る夢を見ました。わたしが一番早かった。そして、後ろを振り返ると、パパがはるか後ろをフウ、フウいいながら走っていて、砂に足を取られてどさっと転びました。
夢のなかで、家族のみんなが楽しそうに笑っていました。