マリちゃん雲に乗る
宗像 善樹
(3)マリちゃんの躾-1
わたしが宗像の家に来る前は、利絵ちゃんと華ちゃんが通学していた小学校の前にあった「荒川屋さん」というペットショップのショーウインドーの中にいました。それより前の、もっと赤ちゃんだった頃のことは覚えていません。
約十六年前の冬の晴れた日、パパとママが散歩しながら荒川屋さんの前を通ったとき、偶然、ショーウインドーの中にいるわたしと目が合いました。ママが「かわいぃー」と叫び、パパも「かわいいね」うなずきました。わたしも思わず「おしっこ」をチョロッとして二人に応えました。ママが、おしっこをするわたしの姿を見て、また、「まぁー、かわいぃー」と絶叫しました。そして、二人はすぐに、わたしを家に連れて帰る決心をしたらしいのです。いわゆる、衝動買いです。だけど、おしっこをして可愛がられたのはその時だけでした。後に地獄の躾が待っているとは、そのときのわたしには、ぜんぜん気がつきませんでした。
わたしが、パパとママ、そして利絵ちゃん、華ちゃんと一緒に暮らすようになったのは、1月末の寒い日でした。家族みんなで、わたしの世話をしてくれました。わたしの新しいハウスに電気マットを敷いたり、風が入らないように回りを毛布で囲ったり、わたし専用のトイレを用意したり、いろいろしてくれました。
わたしは、最初のうちはおしっこをちゃんと専用トイレに入ってしていました。だけど、冬の寒さのためだんだん我慢できなくなって、ついつい食堂のオレンジ色の絨毯の上でするようになりました。厚い絨毯の上ですると、ふわふわでお尻が温かいし、なんともいえず気持ちいいのです。それからは毎日絨毯の上ですることにしました。そのうちオレンジ色の絨毯におしっこの白いしみ跡があちこちにできてしまいました。
ある日、ママの外出中、突然、パパが大きな声を上げました。
「なんだ、この珊瑚礁のような白い跡は」
パパがわたしをじろりと睨むと、やにわに、わたしの首ねっこを捕まえて、おしりを思いっきり叩きました。わたしはこわくて声が出せず、ぶるぶる震えました。パパの隣にいた身長160センチで堅肥りの華ちゃんが「マリちゃんに、なにをするの」と言って、175センチのがっしりした体格のパパに体当たりをするようにして、小さなわたしを奪い取って、助けてくれました。
それでも、わたしは、暖かな絨毯の上でやってしまう快感は忘れられませんでした。
次の日の金曜日、パパが会社で、シーズー犬を飼っている同僚の會田さんからアドバイスを受けて帰ってきました。
「部長。どんなにマリちゃんが可愛いと思っても、トイレの躾だけは、心を鬼にしてやっておかないと、後々、マリちゃん本人がかわいそうですよ。どこにも一緒に連れて出られなくなります」
その晩、パパとママがお酒を飲みながら、ひそひそと役割を決めていました。
それは、