マリちゃん雲に乗る
宗像 善樹
(1)旅立ちー1
今から4年まえ、東日本大震災があった年の、夏の初めのある晴れた朝のことでした。
犬のマリちゃんは、真っ青に澄みきった空に浮いている雲の上から、地上のパパとママに向かって、一生懸命に声をかけました。
「ワンワン、ワンワン。パパとママ、わたしは雲の上でがんばっていますよ」
マリちゃんは、空に浮かぶ天の川のほとりで、3月11日の大震災のために崩れた家の下敷きになって命を落としたり、津波に流されて溺れ死んだ東北地方の動物の仲間の救援活動を必死にやっています。
マリちゃんは、そのことを地上のパパとママに知らせようとしたのです。
マリちゃんが雲の上にきたのは、その年の春の日の夜、パパとママと一緒に住んでいたマンションの部屋で急に心臓発作を起こして、パパとママ、長女の利絵ちゃん、次女の華ちゃんが涙を流して見守るなか、家族四人と「さようなら」をして、空の上に昇ってきたのです。
空の上にやってきたとき、マリちゃんは、そのまま天の川に浮いている雲の船に乗って、天の川の向こう岸にある天国へ行くつもりでした。
そこは、人間と動物が一緒に暮らせる楽しい、幸せな楽園なのです。
でも、マリちゃんが天の川の岸辺に着いて、雲の船に乗り込んだとき、マリちゃんのまわりには、車に跳ねられたり、人間に虐められて怪我をしたりして体を自由に動かせない、気の毒な犬や猫やそのほかのペットたちがたくさんいました。
長い間盲導犬の仕事をして、いろいろと気を遣い、疲れ果てて動けなくなった老犬もいました。
みんな、誰かに肩を貸してもらわないと、自分の力だけでは雲の船に乗り込むことが
できないのです。みんな、悲しそうな目をして、岸辺にうずくまっていました。
彼らの目を見たマリちゃんは、とっさに思いました。
「もし、パパやママがあの仲間たちの目を見たらどう思うだろう。必ず、『助けてあげなさい』と云うに違いない」
マリちゃんはすぐに、自分を犠牲にしてでも気の毒な動物たちを助けて雲の船に乗せて、幸せな天国へ行けることができるようにしてあげようと決心しました。
そして、いったん乗った雲の船から下りて、天の川の河原に戻りました。
でも、マリちゃんは小さな犬の女の子です。自分より体の大きい秋田犬や柴犬や馬や牛に肩をかすことはできません。
そこでマリちゃんは、河原にいた二人のお星さまに声をかけました。
「お星さま、お願いです。わたしと一緒にあの子たちを助けて、天の川の向こうの天国へ行けるようにしてくれませんか」
二人の星は声を合わせて、すぐに答えてくれました。
「いいわよ、マリちゃん。ぜひ、私たちにも協力させて」
二人の星は、河原を散歩していた織姫さんと彦星さんでした。