秋空を飛べ 高橋 禮子 秋空を飛べ 高橋 禮子 出さねばと思う便りがあるもんでついに書きたる君への便り 近寄るを感知されたか背の低き南天の枝にとかげの静止 私にまとわるつきたる一匹の蚊ありひいひい世をすねており 池袋二十五階の窓に見た月夜のビル群赤い点滅 実らざる恋はこうして土深く埋めておこうマンゴーの種 大変なことをしてると思わずにやってしまうか事件というもの 十二時を待たずに寝れば目覚ましの支配は受けない六時の起床 バスタブにぷかり顔出す歌のあり何はともあれメモ残すべし Tweet
にらめっこ 高橋 禮子 にらめっこ 高橋 禮子 届きたる歌集の校正済まさんとふっくらいなり五個の昼食 「徐ろ」でなくて「徐」それなら「おもむろ」にする歌の校正 混じるにはあらず交じると言われれば確かにしかり即断をする 微妙なる味わいそして独自性ひと文字ふた文字油断をsるな ほころびを見つけて補修するような気分にさせる赤鉛筆は プロセスならん校正に手抜きはあらず生む覚悟です。 なかなかにこれでよしとは思えずに次の頁とまたにらめっこ そとは雨かぜさえ強し夕べ見た桜散るなよ花いろ透かせ このゲラを送り返せば空いろのわれのスペース少し広がる きのうより十度も低い春まひるこもるリビングわれの工房 Tweet
サザのコーヒー 高橋 禮子 サザのコーヒー 高橋 禮子 わたしにはおとぎの世界に二億もの相続税を払った話 そのむかしセルビア王国発祥の地とされているコソボどうなる あるはずの車が無いというだけで留守と判断する友のあり 身の回り片付けるべし要らざるは捨つるべきなりごみの哲学 教職にあるころそうだそういえばおりおり思えり大岡越前 人のことどころじゃないのに人のこと抱えて走る師走の下旬 黄昏の風は鴇色吹かれゆくさくら花びらひたすらひろり セラミックヒータふおんと唸らせて詠むぞ詠まねば月夜のがまん 不覚にも立ってしまったわが腹は横になりても横にはならず Tweet
パンと太陽 高橋 禮子 パンと太陽 高橋 禮子 人のすることはこれなり人道を説きつつ終にユーゴ空爆 言論の自由と武力行使とが同居させられ移民多し 分かってはいてもどうにもならぬゆえ蟻になりたい黙黙黙黙 いつどこですれ違うのか北へ行くあなたと南をめざす私 一日に君の書きたるこの便り二日の消印届くは三日 ごみの日を人も鴉も待つという昔むかしはなかったことなり 静けさの中にふたつのくしゃみあり雑誌読みいる二時の図書館 Tweet