ワープ
高橋 禮子
シアターとなる閲覧室ワープした私が歩むは「煉瓦街」です
東京の昔をたどる資料など瞬時に消えてる今は昔だ
呼吸するたびに年齢消されゆく宇宙空間ただようごとく
銀ブラの女性の前髪未来なる平成の風になびかせてみん
次つぎと登場してくる人らいて「蝶々夫人」の三浦環か
明治から大正昭和平成とくぐりぬけたる母にもあえり
慎重に慎重にしてミス一つ気にするなかれと言われたような
ああすでに空は五月の青となる舘より出たるわれの頭上に
シェークスピアのロマン
高橋 禮子
今月のスポットライトは演舞場NINAGAWA十二夜恋の思惑
主膳の助琵琶姫そして獅子丸と三役こなす菊之助こそ
劇場を出るときふいに思いたり舞台にあったマジックミラーを
ステージの風をそのまま現実に戻れば新橋いずれもコラボ
思いきりやるからこそのおもしろさ歴史の重なり共有している
現代に誇りを持って生きるべしシェークスピアのロマンに触れて
ひとひらのチケット日記に潜ませて明日の恋のゆくえ占う
みどりのひれ
高橋 禮子
最終日にのぞめる安田靫(ゆき)彦展「飛鳥の春の額田王」
靫彦の描く額田王のみどりのひれこそ上代のかぜ
万葉の歌人が吹かす風そよわれがまともに受けとめている
絵の世界ゆるり歩いているうちに詠いたくなるわたしの歌を
もうちょっともうちょっととなる咲くことに命をかける湖畔の桜
届きたる「二月のひまわり」もうすでに弥生の本の顔をしている
私のタイムトラベル導くは君の走らすみどりのジャガー
小指の先から
高橋 禮子
生きているけれど足りないものがある吾子を持たざる私のうつつ
赤ちゃんは小指の先から生まれると少女のころに思っていたから
いや違う目の前のことに全力をかけてしまって先見えなくて
振り返るわれの過去(すぎゆき)ひとつづつ見つめてみればいいことばかり
春くるもひとり住まいの私は歌集をこどもと言うしかなくて
後ろ向くときも私にあるんですそんな日届く表紙のカバー
私がわたしに贈る誕生祝「二月のひまわり」生きよのエール