月別アーカイブ: 2015年6月

威し銃 廣瀬雅男(やぶれ傘同人)

 威し銃
         廣瀬 雅男

 蜘蛛の囲を払いて瀬戸を開けにけり

 雷や地の蟻急ぐこともなく

 風の来てつと噴水の金魚かな

 土用の日うの字大きな幟旗(のぼりばた)

 朝顔に明日咲く蕾ありにけり

 昨夜の雨上がりし二百十日かな

 バスを待つ丸太のベンチ茸生う

 みちぼくの山彦となる威し銃


ウイーン 丑久保勲(やぶれ傘同人)

ウイーン
        丑久保 勲

 信号は春の入り日の中で青

 花屑の渦巻いて径よぎりけり

 消防の登はん訓練初つばめ

 陽炎の一の鳥居の奥にかな

 夕桜軸先を回す屋形船

 楽屋口へ消えるチェリスト夕つばめ

 ピアノ弾きに投げ銭をする日永かな

 杉枝を吊るすホイリゲつばくらめ


桃の花 藤井美晴(やぶれ傘同人) 

 桃の花
           藤井 美晴

 風に向き浮きたるままに残る鴨

 春塵や紙のコップノウイスキー

 魚はたく音のおりふし蘆の角

 その先の木立の暗く辛夷咲く

 蕎麦屋まだ灯ともしており春の宵

 風止みしのちを雲ゆく紫木蓮

 蘆原を雪加の声のひとしきり

 桃の花野川は昼を流れけり


花は葉に  安藤久美子 

花は葉に
       安藤 久美子
(やぶれ傘同人)

花木五倍子札所は急な坂の上

賞状につく巻き癖や春の卓

城壁へ諸蔦菜また諸蔦菜

去る時のふらここの揺れそのままに

掌に熱き缶コーヒーや花疲れ

藤房に触れゆくひとりふたりかな

ジュテームと花鉢にあり春深む

花は葉に微睡み覚むる午後の椅子