雀隠れ
　　　　　　　渡辺　孝彦

　古民家の額の村絵図梅白し

　初蝶の畑の隅へと渡りけり

　御社紋は三つ足鳥藪椿

　雨風の夜や白れんの木ごと揺れ

　船底の塗りかえ作業春の昼

　無造作な丸太のベンチ初桜

　とび石の茶室を囲う花馬酔木（はなあしび）
　　
　春西日校舎の壁に児童の絵

　尾根道の雀隠れに日のあふる

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芽吹き山
　　　　　　　　　白石　正介

　川波や春はひかりとともに来て

　春雪の朝の川辺を歩きけり

　梅咲くや山の奥へと道のびて

　ひと枝をきる手鋏や余寒なほ

　花冷えやもつの匂いの広がりて

　落ち雲雀空に鳴き声残したる

　かげろふに人包まれたて去りにけり

　あおみたる木々の葉陰や鳥の恋

　山降りて蕎麦屋に一人春惜しむ

　こともなき風通いけり芽吹き山　

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陽炎
　　　　　　　廣瀬雅男

　二拍子の雫を落とす氷柱かな

　春の水岩越すときはひかりけり

　古希過ぎし幼馴染や梅見酒

　梅林を抜け榛名山まのあたり

　下野（しもつけ）の友より届く野蒜（のびる）かな

　一点の雲無く晴れて花水木

　カタカナの苗札並ぶ植木市

　陽炎の中にかげろふ人となり

　老幹は捩（ねじ）れ捩れて藤の花
　
　自転車の前籠に積む茄子の苗

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　 草の餅
　　　　　　　　　きくち　きみえ

　土筆摘むだけの縁（えにし）の里におり

　手荷物の一番上に草の餅

　ひく波に阿波の砂音春の鳶

　春眠の学生ひざの上に胴着

　髪うすく吹かれ空には雲雀かな

　とどまれば空ほつれゆく揚雲雀

　牡丹の花に真向かう女なり

　花見酒肩巾で足るカウンター

　花衣なれたるふうに着てをりぬ

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