春暖炉
大島 英昭
風を窓より入れて春暖炉
水温む木立と空を映しては
足跡の壊れ易さや春の土
夕鴉滑り来たれり茎立ち葉
ほろろ打つことも乾びし田と畑に
蛇いちご咲けるあたりに取水口
進むより退りて土筆摘みにかえり
鶏鳴や道に積まれし茄子の笛
背後からにはかに蝶に追い越さる
春雨のいつしか音の立つるほど
春暖炉
大島 英昭
風を窓より入れて春暖炉
水温む木立と空を映しては
足跡の壊れ易さや春の土
夕鴉滑り来たれり茎立ち葉
ほろろ打つことも乾びし田と畑に
蛇いちご咲けるあたりに取水口
進むより退りて土筆摘みにかえり
鶏鳴や道に積まれし茄子の笛
背後からにはかに蝶に追い越さる
春雨のいつしか音の立つるほど
さくらのころ
根橋 宏次
暮れかねてゐる公園の滑り台
入漁券要と立札土筆摘む
めばる煮てゐて晩節のおのづから
軒裏に梯子吊る納屋竹の秋
吉野葛きしきしと花曇りかな
くみおきし水にさざなみ豆の花
菜の花やたまたま沖に波ひとつ
遠足のしゃまがせて取る点呼かな
花林檎土蔵の窓の開けられて
冬深む
藤井美晴
草枯るる九重岐(くじょうわかれ)を風が過ぐ
枯葉踏む音や瀬音にまぎれつつ
唐戸から壇ノ浦まで冬夕焼
電線にからまれている冬入日
海に向く門前うるめ鰯干す
昨夜よりの風ゆるめけり初明かり
山門に磯の香のあり実千両(みせんりょう)
晴れ渡る相模の海や寒椿
夢の夜
安藤 久美子
溜息を ひとつ秋日の限りなく
もう弾かぬピアノの埃菊の昼
お酉さま小判に鯛におかめたち
よく晴れて北鎌倉の落葉どき
葉籠りの寒椿ある山路かな
羽子板市押絵のことをみなが言う
木枯らしの夜は酒強き人の輪に
味噌を載せ小太りがよき大根
夢の世の柚子湯の中に瞑りて
水仙の揺るるしぐさに匂いたつ